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夢去りて、オルフェ
【上演データ】
1986(昭61)年12月3日~18日
木冬社結成10周年=紀伊国屋書店創業60周年記念提携公演
会場:紀伊國屋ホール
演出:清水邦夫
美術:朝倉攝
照明:服部基
音響:深川定次
振付:村田大
舞台監督:堀井俊和
出演:平幹二朗/松本典子/垂水悟郎/黒木里美/伊野史洋/やまび研/石塚智二/磯野佐和子/伊藤珠美/王城美〓(王へんに路)/菊岡薫/鈴木京子/林京子/南谷朝子
受賞:芸術選奨(第37回・1986年度)演劇部門・文部大臣賞(松本典子)
再演:1988(昭63)年11月
木冬社・(株)仕事・紀伊國屋書店提携公演
出演:平幹二朗/松本典子/垂水悟郎/赤司まり子/他
【あらすじ】
時代は昭和14年、北一輝を生んだ佐渡の対岸、北陸の酔ヶ浜という地が舞台。ここにはかつて遊園地があったが、昭和10年に大火に見舞われ消失し、そのまま放置されていた。
この地の中学校・有窓学舎の国語教師、桂木一機は若い頃から北一輝を信奉していたが、彼が二・二六事件で死んだ後も未だに生きているものと信じている。
一機の父親は彼が九歳のとき再婚し、その連れ子のぎんと新子という血の繋がらない妹がいる。新子は一機の同僚の数学教師・高野敬二と結婚している。ぎんの方は東京で大部屋女優をしているのだが、一機から「助けてほしい」という電報を受け取り、急ぎ故郷に帰ってきた。
高田連帯所属の陸軍少尉・中原紘一は自分の上官である小桜大尉の夫人・夢野が大尉の留守中に一機と姦通しているという情報を手に入れる。紘一の叔父であり、かつて一機の親友だった酔ヶ浜警察署巡査部長・中原源三、紘一の同僚であり小桜大尉の弟でもある小桜徹平少尉、小桜家の長姉・はると共に一機を追求にやって来る。ぎんと一機は姦通罪を逃れるため、大芝居を始めるが…。
【コメント】
お芝居がお芝居でなくなり、嘘が本当になり、何が真実なのかわからなくなる、そんな展開が二転三転し、悲劇的な結末を迎えます。肩の力の抜けたちょっとコメディタッチの舞台が次第に暗い様相を呈していき、迫力のあるエンディングでした。初演で最前列で見たんです。平幹二朗が凄かった…。
これまでも舞台の中でお芝居を演じている作品がありますが、今回の嘘は本当に込み入っていて、登場人物も多く、重層的な作り方をしています。一番最初の嘘こそが真実だったらしいことを臭わせたまま終わってしまうあたりで、観客を裏切りきらない。期待を残したまま終わるのか、と思わせて期待を裏切り、予想を裏切るのか、と思わせておいて予想を裏切らない、年季が入ってる劇作方法です。
幻想を信じている、というよりは信じることによって生きる力を得ているかのような、このつかみどころのない男。北一機のようなカリスマ性をもった、弱々しいけれど、もの哀しい男に平幹二朗にぴったりはまります。これに例によって力強くてカッコいい、血の繋がらない妹・松本典子ががっちりと絡んで行くことで、混乱を招いて収集がつかなくなりそうな舞台に核ができ、じっくり観ることが出来ました。
「とりあえず、ボレロ」「タンゴ、冬の終わりに」「夢去りて、オルフェ」を北陸三部作と呼んでいます。私は勝手にそう呼んでいるのですが、あながちはずれではなさそうです。他にも北陸を舞台にしたものはあるのですが、作品の印象度からすると、この三作が強烈でした。
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