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戯曲

戯曲冒険小説―歳月よ、老いさらばえた姫たちよ

初出:『新劇』1979年8月号
収録:「わが魂は輝く水なり―源平北越流誌」p185~245 講談社 1980.2
「清水邦夫全仕事1958~1980下」p281~317 河出書房新社 1992.6.20

受賞:芸術選奨(第30回・1979年度)演劇部門・新人賞

【上演データ】
1979(昭54)年7月17日~26日
文学座アトリエ公演
会場:文学座アトリエ
演出:藤原新平
美術:藤野級井
照明:古川幸夫
効果:深川定次
出演:菅野忠彦/小林勝也/角野卓造/神保共子/他
1981(昭56)年12月2日~7日
レクラム舎公演
会場:渋谷ジァンジァン
演出:明石武生
美術:清水邦夫/濃野壮一
照明:日高勝彦
音響:深川定次
出演:草野大悟/鶴田忍/小林トシエ/鈴木弘一/羽田えみこ/他
1999(平11)年11月10日~14日
木冬社<サイスタジオにおける小さな公演 vol.4>
会場:サイスタジオ
演出:清水邦夫,松本典子
美術:上田淳子
照明:堀井俊和
出演:深野良純(男),黒木里美(妻),吉田敬一(外套),高橋秀城(べーさん),越前屋加代(べーさんの妻),桜井友紀,柳下智子(娘ダブルキャスト),扇谷光恵,柳下智子(A)・桜井友紀(B),小川真範,水谷豊,佐藤里奈(山高帽たち)
【あらすじ】
 男は今日もまたハイヒールの万引きに失敗して帰ってくる。妻は土蔵の前で亡き夫が万引きしてきた夥しい数の色とりどりのハイヒール並べている。男は余命いくばくもない妻が前夫の伝記を完成するために、前夫と同じ冒険をし、そのスリルと興奮を感じることによって、前夫が惹かれてやまなかった冒険の〈感じ〉をつかまなければならないのだ。
 彼女の前夫は大学で水産学の講師をし、未知の魚を求めて探検家のように世界中を回っていたが、アンデスの某国の内戦に巻き込まれて死んだ。妻は亡き夫の伝記を書くため通っていた図書館の司書と1年3ヶ月前に結婚した。
 男がまた万引きに失敗し、喫茶店で靴屋の主人につかまるが、その話を聞いていた外套を来た男に万引きが成功する秘訣を教わる。外套が語る盗みにまつわるスリルと興奮を例える冒険話はまるで妻から聞いた前夫そのものだった。外套はいったい誰なのか…?
【コメント】
 文学座への書き下ろしのようです。かつて文学座へ書いたこともあり、沈黙を破って戯曲を書き始めた清水邦夫に依頼があったものと想像されます。つまり、木冬社の活動によって劇作家として幅の広い活動が再開されたと言っていいと思います。当初は木冬社にだけ書いていくつもりだったのかもしれませんが、戯曲提供というのは劇作家にとって発表の場を広げる行為にほかなりません。引き続き民藝や青年座への戯曲提供が行われていきます。
 土蔵というのは物置のようなもので、時折風を通すため物が出され、色とりどりのハイヒールが並べられていたのを見たことがある、とエッセイにありました。少年の頃「狂人」が閉じこめられているのを見てから、作者は土蔵についてはひどくこだわりがあり、繰り返し触れられていますが、恐らく戯曲に直接登場したのは初めてだと思います。土蔵には狂気を鎮める力があるのではなく、狂気を更に狂気たらしめる磁場のような力があり、狂人はその中である種の自由を獲得していたのではないか、と。
 旅へ出た男の心情というか言い訳というか、その辺の話は普遍的で興味深いものがあります。夜、旅先で妻に宛てて手紙を書く、「今すぐに帰りたい」と。けれど朝になるとその想いを胸にしまい、また旅を続ける。なんという他愛もないロマン。この妻が狂うほどがっかりするわけです。そんなに会いたいのなら帰ってくればいい。それでも帰って来られない程の何かがそこにあるのなら、それに対して嫉妬をしたり憎んだりすることが出来る。あるいはまた手紙なんか書かないで妻の顔なんか忘れ去ったようなふりをする。その薄情さを憎めばいい。男がそういう優しさを持ち合わせていないことに妻は腰が抜けるほどがっかりします。憎ませてやることすら出来ない情けない男のロマンを妻は打ち砕き、そして妻自身もは打ち砕かれてしまいました。
 まあ、そういう妻も男に幻想を持ちすぎだと思いますが、ロマンを追いかける男が好きなのはどうしようもない女の習性で、これもまた情けないですね。
 


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