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戯曲

火のようにさみしい姉がいて

初出:『群像』1978年11月号
収録:「わが魂は輝く水なり―源平北越流誌」p95~183 講談社 1980.2.8
「清水邦夫全仕事1958~1980下」p229~279 河出書房新社 1992.6.20

【上演データ】
火のようにさみしい姉がいて 初演チラシ
1978(昭53)年12月18日~28日
木冬社第3回公演
会場:紀伊國屋ホール
演出:秋浜悟史
美術:大野泰
作曲:池辺晋一郎
音響:前島幹彦/深川定次
舞台監督:一谷俊彦
出演:山崎努(男)/松本典子(男の妻)/岸田今日子(中ノ郷の女)/伊藤惣一(みをたらし)/中村美代子(さんざいみさ)/堀勝之祐(スキー帽)/大友龍三郎(青年)/五十嵐美恵子(べにや)/二村民子(しんでん)/金田明夫(ゆ)/安部玉絵(見習)/新野加代子(見習)/五味多恵子/桑島明美/村雲敦子/坪井恵/折井みえこ/山木チヒロ/人村明美/鄭〓(王へんに差)玲/田端芳子(以上毒消したち)

再演:1996(平8年)12月10日~23日
「火のようにさみしい姉がいて96」
紀伊國屋サザンシアター開場記念・木冬社公演
会場:紀伊國屋サザンシアター
演出:清水邦夫
美術:上田淳子
照明:服部基
音響:深川定次
衣裳:若生昌
振付:竹内登志子
舞台監督:宮川孝
制作:関根由美子
出演:蟹江敬三(男)/樫山文枝(男の妻)/松本典子(中ノ郷の女)/安田正利(みをたらし)/中村美代子(さんざいみさ)/黒木里美(さんざいみさの嫁)/新井康弘(スキー帽)/中村由起子(べにや)/遠藤真知子(しんでん・毒消し)/藤田剛生(ゆ・毒消し)/林香子(はな・毒消し)/越前屋加代(かよ・毒消し)/関根道子(板額御前)/吉田敬一(青年)/谷藤太(舞台監督)/藤原常吉(サーカスの綱渡り)/三村朋子/宗由紀美/天笠真弓/山本康子/新井理恵/松井裕子/村松睦人/森川淳
再々演:2014年9月6日~30日(東京)、10月5日~13日(大阪)
シスカンパニー 火のようにさみしい姉がいて
会場:Bunkamuraシアターコクーン(東京)、シアターBRAVA!(大阪)
演出:蜷川幸雄
演出補:井上尊晶
美術:中越 司
照明:服部 基
音響:高橋克司
衣装:前田文子
ヘアメイク:宮内宏明
舞台監督:小林清隆
プロデューサー:北村明子
企画・製作:シス・カンパニー
出演:大竹しのぶ(中ノ郷の女)/宮沢りえ(男の妻)/段田安則(男)/山崎一(みをたらし)/平 岳大(スキー帽)/満島真之介(青年)/西尾まり(見習)/中山祐一朗(ゆ)/市川夏江(しんでん)/立石凉子(べにや)/新橋耐子(さんざいみさ)/さいたまゴールドシアター
【あらすじ】
 ある中年の俳優夫婦が、仕事にも生活にも行き詰まりを感じ、20年ぶりに雪国の故郷に帰る。彼らはお互いに相手が精神を病んでいると思っている。駅前の理髪店へ立ち寄り、誤ってシャボン溶かしのカップを割ってしまうと、そこの女主人や店の客に不当な嫌がらせ受ける。
 その理髪店の女主人は夫の姉のように振る舞うが、夫は姉ではないと主張する。夫の弟と名乗る男も現れ、店の客たちも夫が間違っていると言う。妻は混乱し、夫の言うことよりも彼らの言うことを信じ始める。
 しかし妻は姉と名乗る女に向かって夫を守ろうと戦いを挑むのだが、故郷の幻影に翻弄され、ついには…。
【コメント】
 前作「楽屋」と同様俳優が主人公。今度は「オセロー」を演じた男優です。俳優を描くのはその〈虚〉と〈実〉の両方の人生を行き来する姿に興味をもって、というようなことが書かれていました。以後も俳優という役柄の登場人物は時折現れます。
 また、前々作「夜よ…」と同じく北国が舞台。故郷は懐かしさや感傷だけで還っていくと、何かしっぺ返しをくらわせる、騙されるような気がする。作者の言う「偽故郷」は案外したたかで、そして怖いものだと、この舞台は語っています。悪夢が詰め込まれた過去を幾重にも積み重ねて、幻想を産み出したかのようなラストシーンでした。
 誰が嘘をついているのか、誰が真実を語っているのか、互いの言葉が食い違う時、必ず生じる関係を複数錯綜させることで、重層的な構造が更に厚みを増している、そんな印象を持ちました。
 床屋は少年時代の作者にとって居心地の良い場所だったそうです。保健衛生担当の警察官の息子という立場から丁寧に扱われた上、大人達の噂話を耳にすることが出来る衛生的ではあるが猥雑な場所。そう言えば床屋っていったいいつまで行ったんだろう…?5歳頃にはもう美容院だったから、私の記憶にはありません。男の人だけが知る世界なんでしょうか。
 また、「夜よ…」もそうでしたが、若干近親相姦的な臭いがします。一家心中というのは結構これが原因なような気がすると書いていたこともありました(「われら花の旅団よ、その初戦を失へり」p36)。 確かにそういう話は田舎の方が多い気がします。その閉ざされた空間で発生する稀ではあるが、一つのパターンとして確立された現象なのかもしれません。
 私は再演を見ました。正直言って何故18年も経ってこの作品を上演したのか、その理由はちょっとはかりかねましたが…。また、18年ぶりの再演だけあって観客の年齢層が高かったことが目につきました。紀伊國屋サザンシアターのこけら落としでした。
【コメント 2014.9.6】
2014年に蜷川さんの演出で再々演されたので、初日に観に行きました。大竹しのぶ&宮沢りえという舞台女優として人気・実力ともにトップクラスの女優陣に、シス・カンパニーを代表する俳優の一人、段田安則が絡むという布陣。三角関係の構造は変わらないのですが、これまで「男」が主役で、その両脇で女優二人が火花を散らすスタイルで、山崎努・蟹江敬三という男優さんが派手めでしたから、逆転した印象。舞台の方は楽屋と床屋だけで演じられていたものに、マジックミラーを取り入れ、そこはやはり少し華やかな面も入り、清水作品の日本海を舞台にしたものは必ずといっていいですが、雪を降らせたり。さすがにコクーンという大きな器ではこれくらいしないと、という内容になっていました。
松本典子さんが亡くなって初めての大きな清水作品の上演で、いろいろな思いが去来したことは確かです。松本さんは初演では妻を、再演では中ノ郷の女を演じていました。出演者の中に「救いの猫ロリータはいま...」に出演していた立石凉子さんがいたり、平幹二朗さんのご子息の平岳大さんがいたりと、何となくご縁のある方が多くて、ほっとする一面もありました。
10,000円近いチケット代ですから、観客の年齢層は相変わらず高いのですが、それでも、人気俳優陣のおかげか、18年前に比べ少しは若くなったように思いました。パンフレットの「清水邦夫作品タイトル一覧」の末尾に拙サイトの名前がありました。恐縮です。
 


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