井上陽水 Disc Review
UNITED COVER 2
UNITED COVER 2
  1. シルエット・ロマンス
  2. 黄昏のビギン
  3. リンゴ
  4. リフレインが叫んでる
  5. 有楽町で逢いましょう
  6. 夜霧よ今夜も有難う
  7. 女神
  8. 瞬き
  9. あの素晴しい愛をもう一度
  10. I WILL
  11. 夢であいましょう  
  12. SAKURAドロップス
  13. 氷の世界
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UNIVERSAL MUSIC 2015年7月29日 UPCH-2049

2014年に「氷の世界」40周年のデジタルリマスターを出したが、カバーとは言え、オリジナルアルバムは「魔力」から5年ぶり。2001年に出した「UNITED COVER」の続編というカバー集。ポール・マッカートニーのトリビュートアルバムでオルケスタ・デ・ラ・ルスと「I Will」を演ったり、「宇多田ヒカルのうた―13組の音楽家による13の解釈について」で「SAKURAドロップス」を歌ったりしたこともこのアルバムをつくる一助となったのかもしれない。前作ほど古い曲ばかりということではない。セルフカバーも含まれる。

今回、一番驚いたのが、レーベルがフォーライフではないこと(レコード会社としてはソニー・ミュージックマーケティングになる)。このアルバムはユニバーサル・ミュージックからの発売になる。ユニバーサル・ミュージックを所有していたシーグラムが1998年にポリグラムを買収しているため、まわりまわって旧ポリドール。なんと、約40年ぶりにポリドール復帰。レーベルは「ZEN MUSIC」。フォーライフを離れたのは何か大きな理由があってのことに違いないだろう。。

そして、もう一つ変わったな、と思わせたのがアレンジ。陽水自身もアレンジを担当しているが、森俊之が参加している。これが、素晴らしい。ジャジーが基本で、ストリングスをよく使うが、押しつけがましさがない。私はストリングスがあまり好きではないのだけど、これはイヤミがない。森俊之は大貫妙子「one fine day」のアレンジャーとして知ったけれど、このアルバムは大貫妙子としてもベストに近いアルバムだと私は思っている。

オルケスタ・デ・ラ・ルスが6曲参加していて、これらの曲のアレンジはトロンボーンの相川等がつとめている。

シルエット・ロマンス(大橋純子 1981年)
陽水は随分と長い間、声が変わらないボーカリストだったが、2000年頃から徐々に高音が出ずらくなり、ここに来てそれが目立つ。出そうとすると、少しかすれる。この囁き声に合う歌い方を模索しているような、そんな印象。ストリングスの中でウッド・ベースが入ってきたとき、いいなぁ…と思わず声に出てしまった。スロウでジャジーなアレンジ。
黄昏のビギン(水原弘 1959年)
シンプルなアコースティック・ギターと静かなストリングスだけの構成で、これもまた渋いアレンジで素晴らしい。
リンゴ(吉田拓郎 1972年)
拓郎の名曲で、本人が歌っても、ライブで年々アレンジを変えてよくなっていった曲。でも、このピアノのボサノヴァっぽいアレンジが一番良いのでは?という気すらしてくる。原曲を一瞬忘れてしまった。ここにもオルケスタ・デ・ラ・ルスが入ってる。
リフレインが叫んでる(松任谷由実 1988年)
このフレーズを一度聞いたら忘れられない、ユーミンの大ヒット曲。失恋を歌った曲だが、失恋の初期状態を「リフレインが叫んでる状態」と呼ぶほど、我々世代では定番。血管が切れそうな激情を歌うユーミンと違い、ここでは落ち着いた失恋の曲になっていて、さすが。
有楽町で逢いましょう(フランク永井 1957年)
スタンダードナンバーで、前回の「UNITED COVER」はこういう昭和歌謡がメインだったので、なるほど、という選曲。ブルージーで素敵なアレンジ。
夜霧よ今夜も有難う(石原裕次郎 1967年)
こちらも「黄昏のビギン」と同様、ギターのシンプルな演奏なのだけれど、こちらのギターは昭和歌謡を感じさせる、懐かしい雰囲気。
女神(オリジナル楽曲 新曲)
第1期の「ブラタモリ」でもテーマ曲「MAP」を提供した陽水が、第2期「ブラタモリ」でまたオープニングとエンディングを担当。ここにもオルケスタ・デ・ラ・ルスが加わっている。もともと、私はデ・ラ・ルスも好きなので、あぁいいなぁと。最初にこの組み合わせを考えた人に感謝したい。
瞬き(オリジナル楽曲 新曲)
「ブラタモリ」のエンディング・テーマ。こちらはオープニングの「女神」と違ってスロウな曲で、また囁くような歌い方がいい。
あの素晴しい愛をもう一度(加藤和彦と北山修 1971年)
これだけメジャーなスタンダードナンバーを、それも自分がデビューした頃に大ヒットした曲を、この年齢でカバーするというのもまたおもしろい。アレンジがエンヤのよう。
I WILL(The Beatles 1968年)
2014年12月に発表されたポール・マッカートニーのトリビュートアルバム「アート・オブ・マッカートニー~ポールへ捧ぐ」でオルケスタ・デ・ラ・ルスをバックに演奏した曲。この時のデ・ラ・ルスとの共演が「SAKURAドロップス」へとつながっていく。この曲は2015年2月16日にNHK「The Covers」でもデ・ラ・ルスと共演した。
夢であいましょう(坂本スミ子 1961年)
「黄昏のビギン」に続く中村八大・永六輔コンビの曲。1961~1966年にNHKで放送された同名のバラエティ番組の主題歌。「夜霧よ今夜も有難う」のような昭和歌謡のギター。この2曲、多分本当に自分が好きで選んで、シンプルに歌ったんだなぁ…という感じがする。
SAKURAドロップス(宇多田ヒカル 2002年)
2014年12月9日に発売された「宇多田ヒカルのうた-13組の音楽家による13の解釈について」に収録された、オルケスタ・デ・ラルスと共演した曲2015年2月16日にNHK「The Covers」でもデ・ラ・ルスと共演した。オリジナルはどちらかというと、「日本の美」を意識した曲で、さすが宇多田ヒカル、高い音が素晴らしくよく出ている曲だと思った記憶がある。
氷の世界(井上陽水 ※セルフ・カバー 1973年)
「氷の世界」のもとのアレンジも相当インパクトのある、ハードで派手なものだった。こちらは派手は派手でも、少し軽いような、楽しそうな、サルサのアレンジになっている。

それにしても声がかすれてあの高い透明な声では徐々になくなっていて、それは残念ではあるが、一方でそれに合わせた歌い方というのもあって、新しい一面になっていくのかもしれないという気がした。

タイアップは以下の通り。

2015.7.31

  作詞作曲編曲
1シルエット・ロマンス来生えつこ来生たかお森 俊之
2黄昏のビギン永 六輔中村八大井上陽水
3リンゴ岡本おさみよしだたくろう相川 等
4リフレインが叫んでる松任谷由実松任谷由実森 俊之
5有楽町で逢いましょう佐伯孝夫吉田正井上陽水
6夜霧よ今夜も有難う浜口庫之助浜口倉之助森 俊之
7女神井上陽水井上陽水相川 等
8瞬き井上陽水井上陽水相川 等
9あの素晴しい愛をもう一度北山修加藤和彦井上陽水
10I WILLLennon=MaCartney相川 等
11夢であいましょう永 六輔中村八大今堀恒雄
12SAKURAドロップス宇多田ヒカル宇多田ヒカル相川 等
13氷の世界井上陽水井上陽水相川 等

魔力

断絶