ずっと単行本で読み続けていた「たそがれたかこ」が終わった。アラフォー・アラフィフ女性には響く内容ではないかと思う。こんなさえないヒロインを興味深く読める作品にするには、シンパシーのある設定でなおかつちょっと突飛な行動を取らせる必要がある。たかこは平凡ではなく、平凡以下のダメっぷりなので、その行動もかなりグレードアップしなくてはならない。それが若いバンドへの傾倒と中学生への恋愛だ。偶然知り合った近所で飲み屋をやってるカッコいいおじさんと何とかなる方向へ話をもっていかないところがいい。
独り身の40代女性、仕事はパートで食堂勤務。親のもつアパート経営があるので、母親と二人暮らしなら何とかなる。だから貧困ではないものの、さえないことには変わらない。こんな人でも結婚したことがあって娘がいるが、娘を手放している。
主人公の母親と元夫はタイプは違うが「無神経」を絵に描いたような人たちで、本人はいたってナイーブで傷つきやすい。なぜかこういうタイプの人は無神経な人を近寄らせる。気の毒だなぁとは思うものの、共感は出来ない。私自身の性格から考えて、おそらくこの人とは友達にすらならないし、向こうも近寄らないだろう。実際、直接の知り合いでは、あまり見たことがないぐずぐずしたタイプだ。
それでも私がこの作品を気に入ったのは、彼女が音楽に救いを見出したところ。主人公は若い人が好きそうなバンドに夢中になって、一人でライブハウスに行こうとする。東京キネマ倶楽部やZeppダイバーシティなんか若くなくて一人なら敷居が高い。ビルボードライブ東京やDuo Music Exchangeあたりなら同年代もいるので平気なのだけど。鶯谷で逆方向の出口に出てしまうとかあまりない気がするし、Zeppにゆりかもめじゃなくてバスで行くなど、一筋縄でいかないところがまたいい感じ。この辺がじっくり描かれていて、ライブへ向かう高揚感がよくわかる。ライブは日常を離れ、たくさんのエネルギーをもらえる場で、年齢は関係ない。
また、娘の摂食障害のエピソードもいい。主人公のようなナイーブな人だからこそわかってあげられる部分もあるし、でもだからこそダメな部分もある。心が弱ってる人への対応の難しさをていねいに描いていて、さすがだなと思う。
以下ネタバレになります。
全体として優れた作品であることは認めるが、最後まで読んで好きではなくなった。ずっと読み続けていて、この流れであっても、さすがにそれはないだろうと思っていたのだけど。オーミに告白した件。これはたかこからしたら必然なのだろうけど、やはり私は受け入れられない。
「キモい」のではなく、セクハラだし児童虐待。極端な上下関係がある人からの恋情はどんなにピュアなものであっても表に出してはダメだ。
オーミの立場になってみたら親切にしてくれたおばさん(母親より年齢が上)が自分をそんなふうに見てたなんて、人間不信になっても仕方ないほど傷つく。大好きなバンドもイヤな記憶しか残らない。誰を好きになってもいいけど、好きな人を傷つけても、その想いをぶつけていいなんてことはない。我慢しなくていいと若いバンドのにいちゃんに言われたから告白するなんて、ダメ過ぎる。大人なんだから我慢しろとしか言いようがない。
たかこのダメさを描くのならここまで描かないと、というのもわかるし、ふわっときれいにまとめたくない作者の意図もわかるが、いくらなんでもやり過ぎだ。読後感がすごく悪い。
似たような思いしたのは「うさぎドロップ」。そういう流れになるのは途中からわかっていたけど、最後の章だけなしにしてその前で終わらせれば良かったと思う。
なぜ作品のなかで決着をつけたがるんだろう。オープンなエンディングであとは読者に委ねればいい。これはいわば「ここまで描かないと」という作者の欲なんだろうなと思う。それを否定する気はないけれど、これほどまでに気持ち悪いのは本当にダメだ。ハッピーエンドがほしいんじゃない。読後感の良い作品が読みたい。