08/04

2013

宝石の国 第1巻/市川春子

宝石の国 第1巻/市川春子デビュー作がかなり話題になり短篇をこつこつとあげていたのに、ここにきて連載開始。デビュー前に作者が自作サイトにアップしていた作品がベースになっているらしい。残念ながら私は未見。以下は感想ではなく、作品を読むための自分用のメモです。

宝石たちが自分たちを宝飾品にしようと企む月からの狩人に抗して戦う物語。

リーダーである金剛先生を含め総勢28名が原則として2人1組となり、それぞれ得意なもので役割を分担している。見張り、戦闘、医務、戦略計画、服飾織物、意匠工芸、武器制作などなど...。
宝石の国1目次


フォス(フォスフォフィライト)薄荷色、薄緑色硬度三半得意分野なし
モルガ(モルガナイト)薄ピンク硬度七~七半見張り及び戦闘
ゴーシェ(ゴシェナイト)無色、シルバー硬度七~七半見張り及び戦闘
ヘリオ(ヘリオドール)黄色、ゴールド硬度七~七半
ルチル(ルチルクォーツ)茶色(金紅石)硬度六~六半医療担当
シンシャ(辰砂)赤色、紅色硬度二~二半夜の見張り
ベニト(ベニト石)青色、紫色硬度六~六半 
ジュード(ジェダイト、翡翠)淡緑色、緑色硬度七 
ダイヤ(ダイヤモンド)虹色硬度十戦闘
ボルツ(ブラックダイヤモンド)硬度十戦闘
ユーク(ユークレース)青色(左)硬度七~七半 

※ボルツは多結晶ダイヤモンド。ダイヤモンドの微細な結晶が緻密に集積した鉱物の変種。
この星は6度流星が訪れ 6度欠けて 6組の月を産み 痩せ衰え 陸がひとつの浜辺しかなくなったとき
すべての生物は海へ逃げ 貧しい浜辺には不毛な環境に適した生物が現れた

月がまだひとつだった頃繁栄した生物のうち逃げ遅れ海に沈んだ者が 海底に棲まう微少な生物に食われ無機物に生まれ変わり 長い時をかけ規則的に配列し結晶となり 再び浜辺に打ち上げられた
それが我々である

宝石たちの中には微生物が内包物として閉じこめられて、光を食べ物としその微生物を生かしているようだ。そのため、宝石が壊れても、その微生物がある程度集まりさえすれば傷をつないで生き返らせることが出来る。溶けてしまえばその部分は使い物にならず削るしかないため、完璧とは言い難いがほぼ不死である。そして、生命維持のための食事が必要ないので、光にあたっていれば良いだけ。生殖もないために性別というものもない。だが、他者を思う感情は強くもっていて、あまり役に立たないフォスを救おうとみんなで力を合わせたり、夜に追いやられているシンシャに対してのフォスの強い思いがあったりと、友情や恋愛感情に近い感情は展開されている。

薄荷色の美しいフォスは硬度も高くなく、得意分野もなく、皆の役に立っていないのに、その美しさ故に月人に狙われることが多い。金剛は"博物誌の編纂"という仕事を命じるが、みんなと同じように戦いたいフォスはさぼり気味。そんな中で知り合ったシンシャが自分同様はぐれ者であることを知り、何かとちょっかいを出すようになるが、シンシャの孤独は深い。

光を栄養とする彼らにとって夜は活動が鈍り危険な時間帯。シンシャは自分の中から無尽蔵に出る銀色の毒液で夜のかすかな光を集めることができ、それをもって活動することが可能だ。彼の毒に触れてしまうと、その部分は光が通らなくなり、削り捨てるしかない。そこでシンシャは自ら他の宝石たちから離れている。強い才気と戦闘力をもちながら、何もかもダメにしてしまうシンシャは、月にさらわれたいという願望を持っている。

フォスは月人が残していった巨大カタツムリのような謎の生物に食べられてしまう。仲間の宝石たちが急所を見つけて生物を殻から取り出し潮水につけると小さく縮んでしまうが、殻は空っぽでフォスは見あたらない。殻をもつ生物は、石を食べ殻を修復したり強化したりする習性がある。フォスの身体は殻の薄荷色の部分にある。薄荷色のところを集めて修復することができた。つまり、かたつむりはフォスではない。

では、このかたつむりは何者か、というところで第1巻は終わり。

宝石の美しさと脆さと強さを擬人化し、ドラマ化したSF作品。「鉱物」だけでなく著者お得意の「海洋生物」も両方登場するというお得な作品。本来なら大判で全てとは言わないまでも、できるだけカラーで読みたいところだ。何故著者はこの作品を描こうと思ったのかという問いへの回答がこちら。

仏教系の高校だったのですが、授業で読んだお経に「浄土は道から建物から池から樹木から全てが宝石で厳かに飾られている」というような記述があったんです。極楽だけど宝石は装飾品扱いのままでやるせないなあ、と当時思ったことが元になっています。(『cocohana』2013年1月号)


書誌事項:講談社 2013.7.23 ISBN978-4-06-387906-3 (アフタヌーンKC)
初出:「アフタヌーン」2012年12月号~2013年5月号