講談社 2007.6.13(KC Kiss)
初出『One More Kiss』2006年9月号、11月号、2007年1月号、3月号/『Kiss』2007年 No.1
Book 1:「マザーグース」(ケイト・グリーナウェイ)
Mother Goose or the Old Nursery Rhymes, IIlustrated by Kate Greenaway, Engraved and printed by Edmund Evans, London and New York: George Routledge and Sons.;1881.
【内容】マザーグースの"小さなベティちゃん"が取り上げられています。あかりが転勤先の東京店で慣れない仕事に疲れ、熱を出して寝込んでしまったところへ副店長の寺山が看病に現れます。あかりの部屋の本棚にあった「マザー・グーズ」を見つけて手をとったのを見て、思わず何か読んで欲しいと頼むと、喜んで読み始めたのがこの詩。自分は今慣れない場所で靴を片方なくしてしまっているけれど、もう片方を探してそれを履いてまた歩き出せば良いと、元気づけられるあかりでした。
Book 2「いばら姫」
「グリム童話と魔女―魔女裁判とジェンダーの視点から」野ロ芳子著,勁草書房,2002
【内容】コミック担当のアルバイト、森下紀子が非常に優秀で、社員のくせにまだまだのあかりに対してイヤミを言ったりするので、童話に出てくる意地の悪い魔女のようだと感じ、苦手意識をもちます。ですが、あかりは紀子が描いていたBLの漫画から、彼女の緑に対する気持ちに気付いてしまいます。あかりは「いばら姫」の13番目の魔女が元は仙女だったのに招待されなかったことで呪いの言葉を吐き魔女となった話から、森下の歪んだ気持ちに気付き、彼女の努力を生かそうと懸命になります。そのことで紀子と少しわかりあえた、という回です。
Book 3「ロビンソン・クルーソー」
「ロビンソン・クルーソー」デフォー著,鈴木建三訳,集英社・集英社文庫,1995
※「ロビンソン・クルーソー」デフォー著,武田将明訳,河出書房新社・河出文庫,2011
※「完訳 ロビンソン・クルーソー」デフォー著,増田義郎訳,中央公論社・中公文庫,2010
【内容】面陳、POP描きなど、書店の実務の華やかな面が登場。店長と栞のそれぞれの思いが交錯するこの回はリアル書店とネット書店のそれぞれの良さを戦わせてみた重要な回です。「ロビンソン・クルーソー」は店長が子どもの頃好きだった本なのですが、ロビンソン・クルーソーとオウムの関係を将来の店長と栞の姿に結びつけています。
Book 4「永訣の朝」
「新編 宮沢賢治詩集」宮沢賢治著,天沢退二郎編,新潮社・新潮文庫,1991
【内容】書店の棚をどう組むか、返本をどうするか。作家の人柄だけで本の内容を理解せずに並べたあかりは、書棚の限られたスペースに真剣に取り組む寺山に怒られます。これは書店の実務の中でも地味ですが最も重要な仕事の一つでしょう。雪のせいで帰れなくなったあかりと寺山の会話の中で、雪国育ちの寺山の子供の頃の思い出の中にこの詩が登場します。
Book 5「デイヴィッド・コパフィールド」
「デイヴィッド・コパフィールド」チャールズ・ディケンズ著,中野好夫訳,新潮社・新潮文庫,1967
David Copperfield, Charles Dickens; with an introduction and notes by Jeremy Tambling, London; New York: Penguin, 1996
【内容】有能だが本を商品として見ていない緑と対立するあかり。それなのにたまたま、酔いつぶれた緑を自宅に送り届けることになってしまいます。さらっと述べられていますが、両親が小さいときに離婚し、両方ともそれぞれ家庭をもったために祖父母に引き取られ育てられたという、彼の育ちは意外と重いものです。虐待を受けたわけではないですが、明らかに両親から捨てられた彼はまさに「孤児」と言って良いでしょう。
あかりは緑の書棚にこの本を見つけますが、もともとは緑の父親のもので、父親が線を引いたところを追って、付箋をつけて読んだ緑の心をあかりは感じ、彼を理解するようになり、またそんなあかりに対して緑も態度を変えていきます。二人の気持ちが近づいた最初のきっかけがこの本でした。
この回がこれまでの中でもっとも本とのつながりがスムースで納得できるものになっているように、私は感じました。