松田奈緒子さんという漫画家は少女漫画家のアシスタントからスタートしているのに、王道の少女漫画ではなく、年代の上の女性漫画誌でデビューしたらしい。普通と逆のコースだ。それなのに彼女の名前を世に知らしめたのが「少女漫画」という作品だった、というアイロニカルな作家だ。「少女漫画」という作品は少女漫画へのオマージュとなっていて、「派遣のオスカル」というタイトルでドラマ化もされている。
そんな作者が何年も暖めていた王道少女漫画誌でのデビューと言える作品。田舎の純朴な女の子が都会に出てきて、いろいろな人にだまされたり、優しくされたり、恋をしたりして成長するglowing upの物語。そしてその舞台が若い地方出身者の憧れの街「下北沢」とくれば、企画書はわかりやすく書けそうだ。だが、若い子を飽きさせずに引っ張るにはキャラクターが重要だとか突っ込みを受ける。なんだか本当に王道の少女漫画だ。
この作品の中に出てくる登場人物では「ミチ」がいい。乱暴に見えて繊細な女性だ。主人公は千帆子だが、ミチの方が生き生きとしているように見えてしまう。「レタスバーガー」の綾がそもそもそんな感じだし、「花吐き乙女」だとハジメがそう。そのミチを主役にした「一週間のミチ」が連載開始前に掲載されていて、本編の前に起こった物語となっている。マサトやマチルダ、盾一など少年たちもこれからおもしろくなりそうなキャラクターをそろえている。
大手英会話学校の倒産が相次いだことを踏まえた専門学校の倒産やtwitterで「倒産なう」という場面や、男のところを泊まり歩く家出少女等、現代風俗をふんだんに取り入れているが、その辺は年代を経ると疲弊してしまう可能性があり、だからこそ少女向けの漫画作品は後の世代に受け継がれにくいところがある。作家はそんなことは百も承知で、チャレンジしているのだろう。
描き方がいつもよりゆっくりとていねいなのは少女向けだからだろう。独特のスピード感が好きなのだが、これはこれで、いい。
■書誌事項:集英社 2011.3.20 (りぼんマスコットコミックス) ISBN978-4--08-867114-7
■初出誌
東北沢5号...「Cookie」2010年11月号~2011年2月号
一週間のミチ...「Cookie」2010年9月号