2011年1月のエントリー一覧
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2011
01/26
2011
白泉社 2010.4.25 (花とゆめCOMICSスペシャル) ISBN978-4-59219815-4
収録されている8作の短編のうち、前半4作が連作で、後半4作は「初期傑作選」と銘打たれている。前半4作のうち、3作までが白泉社の少女漫画誌に掲載されたもので、最後の1作は単行本化にあたり描きおろしたものです。
高校の女性教師に恋する男子生徒、その男子生徒に片思いする女子生徒、主にその3人の恋がそれぞれを主人公にした連作となっています。「片戀」と言ってますが、女性教師と男子生徒はあっという間に両思いになります。桜井くんが小野先生に恋に落ちる瞬間は、もうまごうことなき「ギャップ萌え」で笑えます。そして小野先生が桜井くんに恋するのも、ひょうひょうとしてるくせにストレートで情熱的な彼に対してのいわば「ギャップ萌え」です。なかなかかわいらしくて良い作品です。
尚、「夏雪ランデブー1」「関根くんの恋1」「縁側ごはん」「はてなの花」「真空片戀パック」までが2010年の3~4月に刊行され、デビュー4社リレーに続いて5社リレー。2007年以後の作品も含めてですが、2年の間に単行本9冊というのは異常な事態です。大丈夫なのか?とこの頃から私は心配になっていました。
■初出誌
本は見ていた...『ジョシィ』No.2(2008年)
真空片戀パック...『シルキー』2008年12月号
ケセランパサラン...『シルキー』2009年12月号
そのさきの...描き下ろし
サチコの結婚...『コーラス』2006年5月号
DOOWUTCHYALIKE...『別冊コーラス』2006年Winter
スキップした日...『コーラス』2007年12月号
兄嫁の憂鬱...『コーラス』2005年9月号
01/26
2011
集英社 2010.4.25 (愛蔵版コミックス) ISBN978-4-08-782266-3
装丁を見て、「りぼんコミックス」の大きいのかな?と思ったら、違うんです。なかなか芸が細かい。少女マンガと言えばこのなのかちゃんの絵柄が王道だった時代があります。「ぼんぼり」はもちろん「りぼん」ですが、乙女チック路線というような呼ばれ方でした。作者の少女時代も続いていたのだと思いますが、メインの時代はやはり大島弓子、くらもちふさこ、陸奥A子が代表格。中でもこの「なのかちゃん」の絵柄は陸奥A子そのものです。
この「少女漫画」と「SM」のギャップ。「へび苺...」に出てくる「スクリーン」同様、少女の頃の自分が今の自分を見たらどう思うか、というところから発生した作品とも言えるでしょう。その辺を外してしまうと、今ひとつよくわからない作品になってしまいます。男性には理解しづらいかもしれません。私も個人的には「りぼん」は全然受け付けなかったのですが、少女時代にだけ読んでいた漫画が突然今目の前に現れたら、やはりタイムスリップするでしょうし、懐かしいでしょうね。あとがきにもありますが、乙女チック路線を目指して乙女チックから遠いところにいる自分から、乙女な少女漫画へ向けたラブレターだそうです。
愛し合っているのに一方が望んでいることを一方が望んでいないという状況は、なかなかに厳しいものがあると思います。が、そこに本当に愛があるのなら、二人とも酔っ払って愚痴ったり、時に浮気もしたりしていますが、普段は仲良くやっていけます。そして年をとればどうでもよくなります。
細かいことですが、夫の転勤で見知らぬ土地に引っ越して来て3年も経つのに、奥さんに友達が一人もいないのは、さすがに無理があると思います。転勤を機に結婚したような描かれ方をされていますが、結婚後しばらくしてからの転勤なのかもしれません。その辺が明示されていないので微妙ですが。子供がいないのなら、もっと早く仕事に出るのが普通でしょうね。
それともう一つ。地方都市にしてもそれなりの大きな町じゃないとSMクラブはないんじゃないかなと思うので、大都市に転勤してきたのかもしれません。設定があいまいなのは本人というよりは編集サイドの問題かと思います。明確にしてくれた方が読みやすいだけなんですけどね。
連載から2年あまり経ってから最後の1話を加えて単行本化されたということは、最初から4回だけで終わりの予定が時間が経ってやっぱりオチをつけたくなって追加されたのか、あるいは最初から5回の予定だったのが打ち切りになったのか。本誌から別冊に移動しているところを見ると、あまり評判はよくなかったのかもしれませんね。何しろSMですから、フィーヤンとかエロティックスエフとかじゃないと、ちょっと厳しかったのかもしれません。
■初出誌
はてなの花(全4話)...『コーラス』2007年5月号、6月号、『別冊コーラス』2007年Summer、Autumn
ジュンとヨーコ...描き下ろし
01/24
2011
芳文社 2010.5.4 (芳文社コミックス) ISBN978-4-8322-3201-3
10ページの短編の連作。のんびりした作品で、実は一番好きだったりします。ロハスっぽいと言えばそうですが、せわしない日々を生きるには、こういうマンガが手元に欲しいです。「大東京ビンボー生活マニュアル」や「るきさん」を彷彿とさせます。
主人公のキー坊を中心に姉のふみこ、幼なじみのマー君、近所に住む女子高生のヒカルがばあちゃんのかたみの平屋に集います。キー坊は染め物?シルクスクリーンのような仕事をしています。自宅仕事だし、のんびりとしたものです。もちろん収入も少ないのでしょうけれど、家賃がかからないことで何とかしのげているようです。
ネコがいなくなったとか、タケノコ煮ようとか、日々起こる小さな出来事を季節を追って描いているのですが、平凡な毎日は仲間がいるからこそ楽しく過ごせるのです。節約ごはんとかおいしいごはんの作り方は別に描かれていません。物語の中心はあくまで人との関係性だと思います。亡くなったおばあちゃんの追憶や花粉症の友達のための思いやりが「ごはん」という形になって現れているようです。
もちろん、キー坊一人のお話もあります。傑作なのが「お菓子の家」です。誰もが思う夢を実際にかなえてしまったのが、読んでいる方も嬉しい気持ちがしてきます。
しかし、女性が出てこないと、こういう作品は成り立たないのも事実。生活感を全面に出した作品の場合、男ばかりでは、どうにも潤いが出ない(「きのう何たべた?」のケンジのような乙女系のゲイがいれば別ですが)。表紙画像、主人公よりヒカルちゃんの方が大きいのもうなずけます。
バリキャリ志向の女性はキー坊のような人と結婚して、子供の面倒をみてもらいながら、自分が主たる収入源になるのもいいのでは?
■初出誌
縁側ごはん 第1話 縁側ランチ...『まんがタイムラブリー』2009年1月号
縁側ごはん 第2話 炬燵ごはん...『まんがタイムラブリー』2009年2月号
縁側ごはん 第3話 縁側おかし...『まんがタイムラブリー』2009年3月号
縁側ごはん 第4話 縁側花見...『まんがタイムラブリー』2009年4月号
縁側ごはん 第5話 追憶ごはん...『まんがタイムラブリー』2009年5月号
縁側ごはん 第6話 雨天ごはん...『まんがタイムラブリー』2009年6月号
縁側ごはん 第7話 迷い猫ごはん...『まんがタイムラブリー』2009年7月号
縁側ごはん 第8話 捜索猫ごはん...『まんがタイムラブリー』2009年8月号
縁側ごはん 第9話 納涼ごはん...『まんがタイムラブリー』2009年9月号
縁側ごはん 第10話 月見ごはん...『まんがタイムラブリー』2009年10月号
縁側ごはん 第11話 縁側おでん...『まんがタイムラブリー』2009年11月号
縁側ごはん 第12話 師走ごはん...『まんがタイムラブリー』2010年1月号
縁側ごはん 番外編 食前おやつ...『週刊漫画TIMES』2010年4/2号
縁側ごはん 最終話 縁側ごはん...『まんがタイムラブリー』2010年3月号
※番外編の「食前おやつ」は連載時は最終話「縁側ごはん」の後に掲載されたものです。連載の時系列ではなく、お話の時系列で記載しました。
縁側ごはん 最終話 縁側ごはん...『まんがタイムラブリー』2010年3月号
01/23
2011
太田出版 2010.3.25 (f x comics) ISBN978-4-778-32107-9
「ケーキを買いに 第4話 シュークリーム」で登場した関根くんが主人公になった連載作品。大関さんも最初にちらっと出てきますが、少し違う人物像です。こちらの関根くんが大関さんにしたようなこと、出来そうもないし、しそうもないです。
1巻をかけて、じっくり主人公を説明したという印象。この主人公は本当に謎が多い。自分でも一生懸命自分の人生を振り返り、何が悪かったのかと考えている。一見順調に歩んで来たように見える分、気付くのが遅すぎた。無自覚な「涙」として表現されているものはいったい何なのか。ストレスか悲しみか。関根くんが数音先輩に向ける気持ちは果たして何なのか?キラサギさん(女子大生なのかな?)のまっとうさ加減が関根くんをどう導いていくのか?2巻に続きます。
■初出誌(2009年~2010年)
関根くんの恋 第1話 残念無念...『マンガ・エロティクス・エフ』vol.57
関根くんの恋 第2話 受難の始まり...『マンガ・エロティクス・エフ』vol.58
関根くんの恋 第3話 鈍痛...『マンガ・エロティクス・エフ』vol.59
関根くんの恋 第4話 前震...『マンガ・エロティクス・エフ』vol.60
関根くんの恋 第5話 急転直下...『マンガ・エロティクス・エフ』vol.61
関根くんのイヴ...描き下ろし
01/23
2011
祥伝社 2010.2.20 (FEEL COMICS) ISBN978-4-396-76487-6
最初に読んだとき、「三白眼もここまで来たか」というくらい目つきの悪さがきわまった葉月くんに驚かされました。六花ちゃんはいつものショートカット丸顔おめめパッチリのキャラなんですが。幽霊話かぁと軽く流して見ていたのですが、意外に葉月くんが頑張るので、次第に目が離せなくなって行きます。お客として何ヶ月か、その後店員として半年経った後なので、がんばり時だったのでしょうね。
葉月くんは学生でもなさそうなので、フリーターでアルバイトをしていたのでしょうけど、一目惚れしてアルバイトに入り込むなんて、考えてみたらなかなかできることではないですよね。ただ、ちょっと粘着な感じで最初から好感はもてないのですが、少しずつ障害(島尾くん)と戦いながら六花ちゃんに近づいていくところはこんな無愛想な顔してなかなか情熱家じゃないかと思いました。むしろ粘着質は島尾くんの方でしたね。
描きおろしは「フラワーアレンジ基礎講座 簡単リースの巻」で、リースの作り方を六花ちゃんが説明してくれます。それを見て葉月くんがつくったリースは饒舌というより、ちょっとうっとおしいです。
そしてやっぱりまた「ロシアンティ」が出てきました。
■初出誌
夏雪ランデブー(第1話〜第5話)...『FEEL YOUNG』2009年7月号〜11月号
夏雪ランデブー......描き下ろし
01/22
2011
祥伝社 2009.6.15 (FEEL COMICS) ISBN978-4-396-76459-3
最初から普通に読んでいると、若干混乱しますので、編集者の意図はわかるのですが、やはり時系列に読んだ方が良いと思います。「スクリーン」「空の箱庭」「へび苺の缶詰」「僕ノ庭」の順です(「ウタカタンス」と「あさにかえる」は別作品)。何が混乱の元かというと、絵柄の変化です。あとがきにもありましたが、「スクリーン」「空の箱庭」の頃は丸く顔を描くのが好きだったようで、表題作の「へび苺の缶詰」まで1年近くあいて、少し絵柄がシャープになりましたよね。名前が出てくるので同一人物かなとは思うのですが、違いすぎて少々キビシイです。しかし、一つも掲載誌が『FEEL YOUNG』ではないのが、本当にいろいろあったんだろうなと思います。集英社から「ラブメイク」がほぼ同時に出ているので、うまくすみ分けたのかもしれません。
「ケーキを買いに」「チルヒ」「ラブメイク」「へび苺の缶詰」ここまでの4冊が2009年の「デビュー4社合同フェア」です。太田書店、小池書院、集英社、祥伝社の4社から1ヶ月の間に4冊単行本が出るという異例の事態。新人と言っても2001年から一応商業誌?の「アックス」に載せているわけですから単行本化されていない作品もあったので、一気ということではないのでしょうけれど(2007年~2008年頃のものがメイン)、それにしてもこれだけ複数の出版社から一気に出る漫画家も少ないのではないでしょうか?いわゆる「来ている」状態だったのでしょう。その後また5社合同フェアになるのですが。
○スクリーン
「空の箱庭」のチャコが今の自分を過去の自分が見たら、という視点で描かれた4ページのカラー作品。3ヶ月で連載した直後なので、流れは一致しています。
○へび苺の缶詰
「空の箱庭」のスピン・オフで、5年後のお話です。池ノ上くんの学生時代の後輩の浜田山くんという青年が登場します。彼が池ノ上くんのことをずっと「先輩」と呼んでいるのは、元の名字が違うからなんですよね。学生時代からの友人であるコマちゃんがチャコのことを「池ノ上」で認識しているので、彼は婿養子に入っているのだと思います。後からそういう事情だったなと気付くわけですが。
最初は富士郎くんが「いけのうえくーん」と読んでいるので、息子なのかな?と思ってしまいますが、最後に「パパ」と言ってるので、ああ父親だと確認できる。後日談の「僕ノ庭」を読むと、おそらくパパが保育園で「池ノ上くん」と呼ばれているせいであって、深い方の意味はないのだとわかりますが、やっぱり先に「空の箱庭」を読んだ方がかえって深読みしようとしたりして、面白いのではないかと思うわけです。
作者がインタビューで言ってたのは浜田山くんが「これロシアンティ?」というところが好きだということ。「ケーキを買いに 第3話 スイートポテト」でも出てきました。何かロシアンティに思い入れがあるのでしょうか?
○空の箱庭
まず、コマちゃん(駒場さん)に、7年つきあった恋人にふられるっていうのは理由は「オンナ」に決まってるだろう!と言いたい。何故そうは思わないのか、それだけいろいろと油断があったのだろうなと思わせます。一方、不倫をしているチャコ(池ノ上さちこ)ですが、不倫中に一度流産しているのにまた妊娠したというのは、もう間違いなく奥さんと子供から彼(北沢くん)を奪いたいわけで、言ってみれば確信犯です。そんなことをして相手にとっても自分にとっても良い筈がない。池ノ上くんというこの上ない好都合な男がいたからこそ出来たことではないでしょうか。相当ずるいですね。
海の近くに住んで気持ちが少し変わろうとしているコマちゃんが「海のソバの日常を知らずにきたのはソンだった」と言うシーンがありますが、そんなものでしょうか?私は比較的近くに住んでいたことと、文字通り目の前に住んでいたことがありますが、日常になってしまうと犬の散歩や子供の散歩とかでない限り、わざわざ浜辺には行きません。一つ言えることは、大事な話もどうでもいい話も、とりあえず海でするという癖がついてしまったことでしょうか。海辺は決して非日常ではないのですが、複数人で海を見てると「しゃべる」以外のことは特にできないんです。行くところが思いつかないと「じゃあ、とりあえず海に行こうか」となってしまいます。スポーツカイトやサーフィンといったスポーツやバーベキューというレジャーはありますが、日常では散歩するかぼーっと眺めているかしかない。でも視界が開けているせいか、ずっとぐずぐず言ってるのがばかばかしくはなりますね。
作品に戻りますが、不倫で相手が子持ち、しかも小さい女の子がいる男は別れませんよ。女の子が大きくなって「パパ、キライ」と言うようになるまで待てますか?ということですね。間違いなく無駄な時間です。
○ウタカタンス'96
この作品が単行本に入ったことは意義深いですね。掲載誌の扶桑社の『マリカ』は2008年4月に創刊され、10月に休刊になっています。部数が伸びなかったものと思われます。扶桑社という漫画に縁のなかった出版社が乗り出したことは意味があったと思いますが、結局のところわかりやすい特徴がなかったんですよね。
2008年にわざわざ1996年の物語を載せたのは、作者の個人的な意味があったのでしょう。河内遙は1981年頃の生まれだから1996年はまさに女子高生。しかも東京の女子高生だったんですよね。掲載時は篠原ともえ=シノラーが何かわからない人もいたのではないでしょうか?パフィーとかシノラーとかパフュームとか女子高生に局地的に人気のあるアイドルがときどき出ますが、どこか共通点があるような気がします。「カワイイ」のツボがちょっと違うんですよね。安室奈美なんかはもっとファン層の広いアーティストでしたが。
女子高生っていうのは女性の人生の中でもっとも他人との区別をされたくない時期、浮きたくない時期らしく、そういう前提での物語が多々あります。ヤマシタトモコ「HER」の中の一篇にありました。しかし、そういう空気はあまり自分の回りではなく、むしろ没個性は悪とされていたので逆に背伸びしてでも他人との違いを主張しないとならないところがありましたので、理解はできませんが。
作品としては周囲の評価との違和感を感じるちょっとカッコいい女の子が登場する普通っぽい学園ものですが、「バレエ」がキーポイントでしょうか。
○あさにかえる
青林工藝舎の『アックス』(1997年刊)と言えば、実質的に青林堂『ガロ』の後継誌なので、個性的な漫画家の登竜門としての立場を2000年頃には確立していたように記憶しています。『アックス』や『ガロ』でのデビューを商業誌デビューというのは若干抵抗がありますが、同人誌ではないので、中間的な存在というように個人的には認識していました。
○僕ノ庭
「空の庭」のスピンオフ「へび苺の缶詰」の1年後という設定で描かれた8ページの短編。富士郎くんの視線から始まり、途中で通常の漫画の視点に戻ります。池ノ上夫妻に世話になったくせに、コマちゃんが5年も二人の子供に会わないことは結構不自然な気がしますが、いかがでしょうか?
■初出誌
スクリーン...『コーラス』2007年3月号 集英社
へび苺の缶詰...『別冊コーラス』2008年Spring 集英社
空の箱庭(全3話)...『コーラス』2006年9月号~11月号 集英社
ウタカタンス'96...『マリカ』創刊号(2008年)扶桑社
あさにかえる...『アックス Vol.42』(2004年)青林工藝舎
僕ノ庭...描き下ろし
01/21
2011
集英社 2009.5.24 (クイーンズコミックス) ISBN978-4-08-865536-9 原案:墨染蓮、協力:ドクターシーラボ
こういう作品で見てみると、この人の絵柄はとても少女漫画っぽく、目が丸くてさわやかで良いのかもと思わせてしまうところが作家の力量というやつでしょうか。昔から読んでいると、このいかにもな少女漫画ストーリーに違和感を覚えるのですが、その辺をとっぱらって見ると、なるほどなと。これを描いた時点でも結構キャリアは長いですが、さすが集英社、原作つきですね。内容はこれがまたいかにも「コーラス」っぽいキャリアもの。元々集英社の女性漫画誌にはあまり馴染みがないので、とても違和感を感じました。
■初出誌
本編...『コーラス』(集英社) 2008年12月特大号~2009年5月号
番外編...『コーラス』2009年7月超特大号
01/21
2011
小池書院 2009.5.20 ISBN978-4-86225-467-2
江戸時代を舞台にした短編集。格調高い作品群ですが、初出誌を見て納得。商業誌に掲載されたものばかりではなかったわけですね。江戸ものの遊女の作品というと、安野モヨコ「さくらん」がまず浮かびます。それから明治になりますが松田奈緒子の「雪月花 大門パラダイス」も近い感じ。これらと同様、独特の柔らかく細い線が艶めかしくもの哀しく、雰囲気に合ってます。「春/梅雨/夏/秋/冬/陽春」と季節を追ったスタイルも情緒があって良い。
○チルヒ
足の不自由な遊女のお話。足が不自由というのは、途中までわかりませんでしたが、遊郭ではなく船なのでその辺は事前に知識があれば自分にもわかったでしょう。若い髪結いは女性の髪は結わなかったのか、あるいは男性の髪結いは女性の髪は結わなかったのか、その辺の知識が自分にはありません。彼が「江戸に戻って来たら」と言う言葉はきっとかなわないのだろうけど、わずかな希望の感じられる美しいラストでした。
○ハスネ
お寺の陰間の話。寺院の陰間と言えば、それこそ大昔からいた存在で、少しきれいな子がやってくると即陰間なんでしょうか。お寺にもらわれてくる子と言えば、学があるか、親がいないか育てられない子が圧倒的だったでしょうから、お寺としては好きに出来たんでしょうね。もの哀しい中にも狸の化かし合いといった面もあり、あまり陰鬱な作品ではありません。
○ヒトヨヒメ
遊郭での女郎の話。見開きページ、花火とお盆のナスが素敵な構図で、いいですね。単行本時に追加した描き下ろしです。
○テンキク
天狗のお話。修行中に迷子になった天狗の子と人間の女の子のほんわかした交流が愛くるしい。天狗は鳥目だから夜は動きがとれないので、食事をあげて夜一緒に寝てあげようとするも「みのが汚くて悪い」と遠慮するという、なんともかわいい天狗の子。ペットを拾ってきた子供と同じだ。せっかく仲良くなったのに、別れなくてはならない寂しさに泣く女の子に薬を烏帽子を預けて天狗の子は去っていく。最後は、また会えるよね、といった感じでほっとする。
○ユキオレ
酒びたりで女房に出て行かれた男の話。残されたかんざしが語る女の想いが哀しい。
○サクヒ
家出娘と帰ってきた髪結いがいっとき茶屋で出会ってのお話。髪結いの男はきっと女のいた船着き場へ戻るのでしょう。その先はわかりません。
■初出誌
チルヒ...時代劇漫画[ジン] 2008年4月号(小池書院)
ハスネ...時代劇漫画[ジン] 2008年7月号(小池書院)
ヒトヨヒメ...描き下ろし
テンキク...大阪芸術大学 大学漫画 vol.10(大阪芸術大学/小池書院)2008年
ユキオレ...大阪芸術大学 大学漫画 vol.11(大阪芸術大学/小池書院)2008年
サクヒ...大阪芸術大学 大学漫画 vol.12(大阪芸術大学/小池書院)2009年
01/21
2011
太田出版 2009.5.30 ISBN978-4-778-32086-7
2009年に刊行された河内遙の初単行本。2001年にアックスでデビューしてから、実に9年かかった。クリエイティブのレベルが高いので、エリートかと思ったが、実は苦労人のようだ。
初出誌が初出誌なので、かなりエロ色が濃い。そこのところ事前に覚悟しておいた方が良いかも。BLあり、SMあり、ちょっと倒錯ぎみな話あり。お話は「ムッシュ・イノダ」という町のケーキ屋さんを中心に、買いに来るお客さんやパティシエとその妹が繰り広げるオムニバスストーリー。
第一話のエクレアは何に似せているのかがポイント。エクレアを買いに来る客の男性は老紳士とあり、見た目50代以上、むしろ60代に見えるのだけど、それなら四半世紀以上前はおかしいでしょう。高校生の頃だと40歳、以上でもせいぜい50歳になるため、ここは正確に40年前とか言った方が良いのでは?と思いました。
第二話のスポンジはパティシエの猪田くんと繭子さんのお話。猪田くんは三白眼の男の子の原型に近いかな。
第三話は中学生のエレナさんと委員長の話。ここでロシアンティしか出ない、スウェーデン人とのハーフのエレナさんが登場します。この「ロシアンティ」がポイント。
第四話は「関根くんの恋」の関根くんの登場。デブ専の変態ですが、大関さんに気持ちを打ち明けることが出来ません。というよりはデブ専の自覚が足りない、イケメンですがぜんぜんイケてない彼です。
第五話は高校生の猪田妹と先輩のお話。この妹は最初に登場したショートカットのムッシュ・イノダの店員さんのはずで、そう思って読んでいるのですが、どうも髪型が違う。それで妹が二人いるのかななどとか考えていたのですが、エピローグでショートカットの彼女が「センパイ(ハート)」と言うのでやっぱり同一人物らしい。第5話と第1話およびEpilogueの間に時間の経過があるのかな?とか思います。
■初出誌:2008年~2009年『マンガ・エロティクス・エフ』(太田出版)
ケーキを買いに 第1話 エクレア vol.51
ケーキを買いに 第2話 スポンジ vol.52
ケーキを買いに 第3話 スイートポテト vol.53
ケーキを買いに 第4話 シュークリーム vol.54
ケーキを買いに 第5話 チェリーパイ vol.55
Epilogue ケーキを買いに
キワキワケメコさん(2007年。初出誌『マンガ・エロティクス・エフ』vol.47)
01/21
2011
ひねもすワルツ | アックス(青林工藝舎) | vol.20(2001年) |
ソレイユ | アックス(青林工藝舎) | vol.24(2001年) |
夜の海 | アックス(青林工藝舎) | vol.31(2003年) |
はい せつせつ はん すうすう | 幻燈(北冬書房) | 5(2004年) |
ひまつぶし | 幻燈(北冬書房) | 5(2004年) |
乙女チャンラ | 幻燈(北冬書房) | 5(2004年) |
お風呂屋人魚(全13話) | 朝日小学生新聞(朝日学生新聞社) | 2005年4月2日~6月25日 |
お風呂屋人魚 Part2(全26話) | 朝日小学生新聞(朝日学生新聞社) | 2005年〓月〓日~2006年3月31日 |
スタコラサークル(全26話) | 朝日小学生新聞(朝日学生新聞社) | 2006年〓月〓日~〓月〓日 |
ニコニコ人生センターでの「鈴木さんの勇気ある告白」をもう一度 | マンガ・エロティクス・エフ | vol.40(2006年) |
ハルカ・エイティ(原作:姫野カオルコ) | 別冊コーラス | 2006年 Spring |
ねむりじたく | 幻燈(北冬書房) | 6(2005年) |
リアルこむぎに会いたい!(企画「ハピマルズ」) | 別冊コーラス | Special(2007年) |
糸遊 | 別冊コーラス | Special(2007年) |
机上の空恋 | 月刊フラワーズ | 2009年1月号 |
カミキリムシ | フィール・ヤング | 2009年3月号 |
あのころ僕らが 前編 | コーラス | 2010年6月超特大号 |
あのころ僕らが 後編 | コーラス | 2010年7月超特大号 |
にわか忍者でごめんなさい | マンガ・エロティクス・エフ | vol.62(2010年) |
雨とサイダー | 月刊フラワーズ | 2010年8月号 |
7階の女 | onBLUE(祥伝社) | vol.1(2010年12月10日発売) |
01/21
2011
特集「徹底特集 河内遙ができるまで」『マンガ・エロティクス・エフ』vol.62
座談 「作品集 このたびは」発売記念! えすとえむ×河内遙×武嶌波...『フィール・ヤング』2010年11月号
対談 「夏雪ランデブー」2巻発売記念! 河内遙×ヤマシタトモコ...『フィール・ヤング』2010年10月号
FEEL YOUNG 河内遙インタビュー!(2009年5月)
サイゾーウーマン 異例の4社合同フェアでデビュー、業界注目の漫画家・河内遙って?(2009年9月)
flowers NEW WAVE(2009年11月)
FEEL YOUNG 河内遙インタビュー!(2010年2月)
01/21
2011
公式サイト:パギソレ
河内遙は東京出身、女性漫画家である。1981年(武嶌 波のプロフィールより)頃の9月6日生まれ。
祖父は戦前から活躍した漫画家・アニメーターの古沢日出夫、両親もアニメ・クリエイターというサラブレッドである。この環境が彼女に与えた影響は、80年代後半から90年代のサブカルから大衆的なものまで様々なマンガが家庭にあったということである。マンガや本、アニメーションや映画など、多くのものが手をのばせばそこにある状態だったようだ。現在の幅広いジャンルを扱うことが出来る、しかもオリジナリティの高い漫画家としての根が家庭にあったと思わざるを得ない。たくさんのものがインプットされているから、影響を受ける面もあるだろうが、自覚的に模倣を避けている面もあるのではないかと想像する。また、絵を描くことを職業にすることへの家庭における抵抗のなさは、やはり特殊なものがあるだろう。
中学から受験のため絵画教室に通い、東京都立芸術高等学校油絵科に入学。えすとえむ、武嶌 波らとは同級生でともに漫研に所属。高校在学中より青林工藝社『アックス』に持ち込みを行う。
2001年『アックス』で「ひねもすワルツ」でデビュー。その後もこつこつと描き続け『アックス』『幻燈』で作品を発表していたが、2005年に『コーラス』に持ち込んだ「豆乳コーヒーブギ」で少女漫画誌デビューを果たす。2007年に『マンガ・エロティクス[エフ]』に「キワキワケメコさん」が掲載されると、作品の幅がどんどん広がり、掲載誌も増加、作品点数も急激に増えて行く。
2009年に単行本が刊行されるも、いきなり1ヶ月の間に4社から単行本が出るという驚異的なデビューを飾る。続いて2010年2月~4月には5社から単行本が出る事態に。明らかにオーバーワークと思われたとき、小学館『ビッグコミック・スピリッツ』誌の「オーミ先生の微熱」の連載が休載になり、祥伝社『FEEL YOUNG』の「夏雪ランデブー」の連載が一時中断される。
2011年より「夏雪ランデブー」も再開したが、「関根くんの恋」の連載も継続しているため、、「オーミ先生の微熱」の連載再開は前述の連載が終了してからと予想される。
作品のタイプは多岐にわたるが、本人としてはこれが描きたいと思って描き始めるわけではないとインタビューで語っていて、とにかく漫画を描くことが好きな様子。どちらかというと職人肌なのか、頼まれると良い作品を仕上げなくてはいられない、頼まれると断れない性格のようだ。出版界は一社の枠を越えて、この才能をつぶさないように調整して欲しい。