2010年9月のエントリー一覧

09/21

2010

どうしても嫌いな人/益田ミリ

どうしても嫌いな人新刊で出てすぐ買ってすぐ読んで、その後忘れていたのだけど、結構話題になっていたようだ。で、「すーちゃんの出した結論が肩すかし」と言う人が意外といて、それならばと、少しだけ書き残しておこうと思った。ネタバレになります。

そもそも「すーちゃん」シリーズは「バリキャリではないけど、仕事を頑張っている人がいるよ」というのがメッセージなんだと思う。すーちゃんはほんわかして好きだけど、個人的にはむしろ毎回出てくるサブキャラの結婚への迷走と落とし前の付け方がおもしろいなと感じている。

今回、「どうしても嫌いな人」ですーちゃんが出した結論が話題になっているのだが、あれは「キツければ無理せず逃げ出した方がいいこともあるんだよ」という暖かいメッセージだと思う。このお話は最後のお母さんの台詞が決め手なのだけど「一番大切なものはあなた自身です」という方向へ視点を動かしてみなよという思いが込められていて、やさしい物語なのだ。最近不況で仕事がないせいもあり、人間関係に苦しんでも無理をして頑張って心を病んでしまう人が多いので、作者のメッセージは実は正しいと思う。

ただ、自分としてはこうはならないだろうなと思うので、その理由を。

私にとっては仕事場で「どうしても嫌いな人」は「仕事が出来ない人」だけ。だから多分この話の根本的なところがわからないんだろうと思う。そもそも「人の悪口ばっかり言ってるから嫌い」なんて言われてもまったく共感がもてない。仕事のやり方が汚いとか、そういうのならまだわかるのだが...。「嫌いな人の良いところを探してもダメだ」とかいう台詞もあるが、なにがダメなんだろう?どうして「嫌いにならないようにしよう」っていうマインドコントロール出来ないんだろうな。

で、この話、例の嫌いな人が仕事が出来る人かどうかの観点が抜けている。仕事が出来る人だったらもうその段階で私にとっては「嫌いな人」ではない。仕事場で嫌いなのは「仕事が出来ない人」であって「仕事が出来ないけどいい人」なんていうのは意味がない。どんなイヤな奴でも戦力になればそれでいいし、どんな意地悪な人でも自分より仕事が出来るのなら自分より上に立ってその部署なり会社を引っ張って行って欲しい。そういうものではないかなと思う。

すーちゃんの嫌いな部下の彼女は最初からすーちゃんのポジションを狙っているのだが、最初そうは見せていない。単に悪口ばかり言っているイヤな子、くらいな感じで出ている。アルバイトの子を浸食していくことで次第に本心が明らかになる。単純なポジション争いだし、小さな権力闘争だ。すーちゃんは「社長の親戚」というポイントを持つ相手に、単に負けただけ。

私だったら最初から相手が上を狙っているかどうかを見極め、早い段階で彼女を推挙して自分を降格させてもらうだろうなと思う。異動は簡単にはできないだろうけれど、コストがかからず、社長の親戚を立てることが出来るのだから、上は文句は言うまい。

相手が仕事が出来る人ならとっとともっと上にあがってもらって今後自分をよしなにしてもらえるし、仕事が出来ない人だったら明確かつ大きな失敗をしてもらってとっとと失脚してもらえる、あるいは自分でその職場がイヤになって逃げ出してもらえる。

もちろん一種の賭けではあるが、相手の狙いを見極め、うまく動かしたら自分に最終的にリターンしてくるメリットは大きいと思う。当然相手にとってもメリットがあるように最初は見せないとダメなんだけど。もちろんデメリットの方が大きくて、結局は会社を去らなければならない可能性もある。だから賭けなんだけれど。とにかく、自分が嫌いになれば相手も嫌いになるということを頭におけば、力のある人に嫌われたくはないから、こちらから簡単に嫌いにはならない、というかなれない。怖くて。

私の言うことは同意してくれる人はあまりいないだろうが、仕事場の人間関係なんていうのはこれくらドライでないとと思ってしまうかな。単純に感情を持ち込まないようにすればいいのだけどね。なので私の場合相手が会社を辞めて、あるいは自分が辞めて初めて「あー私はあの人がこんなにも嫌いだったんだ」と気付くことが多い。

というわけで、全然共感は出来ないのだが、「共感出来ない」ってtwitterで流したら、結構つっこまれたので、ああ、いろいろな人のいろいろな感情を動かす本なんだなぁと思った。その点でこの作品はすごくうまいと思うし、成功だと思う。益田ミリっていう人は、本当に頭のいい人だな。絶対友達になりたくないけど。

09/10

2010

ゆるふわSF特集

『FRaU』2010年9月号の本とマンガ特集に「女子もハマれるネオSFマンガ」という門倉紫麻さんの選んだマンガのページがありました。この最初のものが「山へ行く」(萩尾望都)だったことや、ちらちらと知っているものもあったので、全部読んでみようかと、思って読んでみました。

山へ行く 萩尾望都

「山へ行く」萩尾望都 小学館

ハードなSFのイメージの強い萩尾先生ですが、こちらは短編集ですし、日常の中のなんとなく違うなという感じの作品群なので、とっつきやすいです。家族の話が多かったりもします。名作「柳の木」収録。鳥肌が立ちます。『flowers』で連載中。

小煌女 海野つなみ

「小煌女」1~2巻 海野つなみ 講談社

当初はクラシックな感じのSF学園ものだったのが、突然の大逆転が起こってあれよあれよという間に話が拡大していきます。絵は好きではないのですが、意外におもしろいです。『KISS』で連載中。

世界の合言葉は水 安堂維子里

「世界の合言葉は水」安堂維子里 徳間書店

『コミックリュウ』に発表された短篇を集めたもので、私は初見でした。水がテーマなので海や雨が多く出てきます。ゆったり、ほんわりとした優しさに包まれた不思議なSFです。どれも良いのですが、特に「ぎゅう」が気に入りました。こういう感覚って、言葉で説明できないのですが「なんとなく本当はこうだったらおもしろい」と思えるツボなのです。これはオススメです。

テルマエ・ロマエ ヤマザキマリ

「テルマエ・ロマエ」1巻~ ヤマザキマリ エンターブレイン
昨年大ブームを起こした作品です。「マンガ大賞2010大賞」「手塚治虫文化賞短篇賞」を受賞。以前イタリア家族漫画を読んだことがありましたが、最初はあれを書いた人と同一人物とは思いませんでした。古代ローマに現代日本のお風呂を導入していく話なのですが、これを「上から目線」という人の考え方はよくわかりません。ルシウスが「平たい顔族の風呂はここがすごい!」と思うところでこちらも再発見があり、そして様々な機器類を勘違いしながらもその効果をきちんと読み取り、自分なりに作り直していくところがおもしろい。比較文化論とかいうおおげさなものではありませんが、ルシウスの柔らかい頭に学ぶところは多いです。『コミックビーム』連載中で、まもなく2巻が発売されます。

虫と歌 市川春子

「虫と歌」市川春子 講談社

すごい人が出てきたなと、最初は言葉が出ませんでした。初期の作品こそ高野文子を思いっきり意識した作風でしたが、徐々に離れて行って、今は完全に独自のスタイルを作っています。ネットの中でがっちり論評が出ているので、そちらを読んだ方だ良いです(ひとりで勝手にマンガ夜話webDICE マンガ漂流者(ドリフター))。『ユリイカ』2010年2月号に小特集が載っています。

『アフタヌーン』に1年に1作ずつ描いていったもので、もうデビューして5年です。この単行本の後はスピードアップしたのか、今年に入って2本すでに発表されています。シンプルで細い線、白と黒とグレーのシンプルな組み合わせ。本当にマンガってこれだけシンプルなものなのだなということが実感できる絵です。お話はとても不思議なSFなのに、徹底した家族愛。特に兄弟が繰り返し出てきます。最新作「25時のバカンス」では姉と弟になっていますが、兄と弟、兄と妹だったり、いずれも微妙な人間関係で、だからこそエロティック。それにしても「虫と歌」っていうのは、なかなか手に取りにくいタイトルだなと思ったりします。私、虫がダメなので。

ともだち100人できるかな

「友達100人できるかな」1~3巻 とよ田みのる 講談社
ごくたまに連載を読んでました。肩に力の入っていないものを読みたいときに、ちょうどいい感じのSF作品。子供時代に戻っているせいか、こちらものびのびとした気持ちになれるのが不思議です。『アフタヌーン』で連載中。

第七女子会彷徨

「第七女子会彷徨」1~2巻 つばな 徳間書店

初見。そもそもイマドキの普通の女子高生がこんなに天然でかわいいのかどうか、それすらわからない私に、これが日常生活の中での異世界なのかどうかもわかりません。しかし、どんな不思議なことが起きても、女子高生はきっとたくましく対応していくのだろうなと思えます。二人とも恋に無縁なため余計な雑音が入ってこなくて、純粋に不思議な世界を楽しめるところもポイントでした。尾崎翠の「第七官界彷徨」からタイトルはとられているようです。『コミックリュウ』で連載中。

初見の作品もありましたが、興味深い作品ばかりでした。やはり『コミックリュウ』や『コミックビーム』『アフタヌーン』といった普段少女マンガとは縁のないところでがんばっている人たちです。その中で王道少女マンガとして『flowers』『KISS』も健闘しているというところでしょうか。門倉さん、おもしろい作品を教えてくださって、ありがとうございました。