(注:こちらにその後を書きました)
『Kiss』No.5 2010年2月25日発売号に掲載された冨貴美智子(ふけ・みちこ)「猫飼っていい?」という作品が高野文子の「るきさん」にそっくりな点があることは、読んですぐに気づいた。その日のうちに「冨貴美智子」をGoogleで検索してみたが、『Kiss』の書誌情報以外は1件もひっかからない。その後も気にはなっていたが忘れていて、昨日ふとまた名前で検索したところ、2chととあるブログがひっかかった。やはり、そうだよね。
在宅で仕事をしている女性ののんびりとした日常を描いているという設定が「るき」さんと同じだけではない。絵や話の流れもかなり似ている。
まずは扉絵。お店の前で主人公が歩いている図はほぼ「るきさん」の表紙絵と同じである。
第一話、瞳子さんが自宅で仕事をしているところ、仕事以外のことをしているところ、そして月末にお給料をもらいにいくところまで、流れはほぼ一致している。
第二話、おともだちのてんちゃんの登場したポーズ、「るきさん」のお友達のえっちゃんが登場したときのポーズと一緒。えっちゃんとめがねの丸い顔はほぼ同じキャラクター。
というように、明らかな模倣が見られる。
この作品、第20回Kissマンガ大賞(ショート部門)佳作だそうで、そのときの受賞の言葉が2chに転載されていたので、そのまま引用する。
第20回 kissマンガ大賞結果発表
ショート部門 佳作 賞金50万円
『猫 飼っていい?』(4px5本 6px1本)
萩野ふみこ 新潟県 25歳
審査員コメント:伊藤理佐氏
デビューおめでとうございます。パチパチパチ。
瞳子さんの小さいけど、地味だけど、きちんとした暮らし、楽しいです。
4コマにぴったりな素敵な主役だと思います。
読んでいてホッとします。
すこーしだけ、ほんと少しだけ残念なのは萩野さんが好きな(目指している?)
漫画家さんがわかってしまうこと、かな。
でも他の漫画家さんも、もちろんわたしも誰かの子供!
色んな漫画家さんのミックスの子供なのです。
これから大事なのはとにかくいっぱい描くことだと思います。
頑張ってください!Kiss 2009年12/10号(23号)より
このように伊藤理佐氏が受賞時に指摘しているので、編集が知らないわけはない。そして名前が受賞時の「萩野ふみこ」から掲載時には「冨貴美智子」に変えられているのだ。編集側はもちろん気づいていて、掲載している。そして『Kissプラス』で7月号から連載が決まっているのだそうだ。
さて、ここで高野文子先生についてだが、私はかなりライトな高野ファンである。高野先生が萩尾先生をとてもリスペクトしているので、という理由で読み始め、一応全作品(といっても寡作な方なので、少なめだが)拝読した。
すごい。画力、構成力、物語も、その奥深さも、すべてが圧倒的にすごい。これだけ高い水準の作品を描いていればそりゃ寡作にもなる。どれほど高く評価されている作家かは、様々な文献でもわかった。絵の力は「おともだち」で、物語としては「ラッキー嬢ちゃんのあたらしい仕事」で、「奥村さんのお茄子」なんか、もう難しくて頭が白くなってしまった。まさに孤高の天才だと思う。
そんな中で、例えば「東京コロボックル」や「るきさん」は比較的誰にでも受け入れられる作品だろうし、「黄色い本」なんかは、ちょっと文学部出身の友人になんかに勧めたら必ず飛びついてくれる作品だ。
だが、「るきさん」について高野先生本人があまり気に入っていないという話がある。本当なら、こんなにいい作品なのになと残念に思う一方、ちょっと毛色が違うからなぁと納得もする。バブル期の「Hanako」にこんな作品が載っていたとは、ものすごく浮いていたと思う。でも、そんなことが出来てしまうのも、高野文子だからと言えるだろう。
あらためて言うが、「るきさん」は在宅で医療事務をしながら、ゆったりマイペースで暮らす若い女性のお話だ。えっちゃんという友達もちゃんといるし、結構いろいろなところに出かけて楽しく過ごしている。私はすごく好きな作品だ。読んでいて、心からほっとする。
冨貴美智子の「猫飼っていい?」を読んだとき、「盗作か!?」という怒りより前に「この続きを読みたい」と思ったのは事実だ。今この時代に「るきさん」のような人の話が読みたい。きっとどんな立場の人でも、その物事にとらわれてなさかげんに「そうか、なんでもいいじゃん」というリラックスした気になるのではないかと思う。「週末、森で」も自宅で仕事をしながらのんびり生きる人の話だった。少々説教くさいのが玉に瑕だが、これがウケたのだから、「猫飼ってもいい?」もいいんじゃないかと、編集者は考えたのかもしれない。
「猫飼っていい?」は、高野作品に対し、あまりにもリスペクトが強くて、盗作と言われても仕方がないことになってしまっているのだろう。きちんと別の設定も考えてあるようだし、もったいない。オリジナリティを強め、模倣している部分を弱めて、続きを描いてくれないかなと思う。正直「模倣」というにはひどすぎる。アマチュアならともかく、プロとしてはこのままではやっていけないだろう。方向性は悪くないが、やり方が最悪だった。だからプロの漫画家としての力量がどうなのか、まだこちらには見えてこない。
尚、魚喃キリコの「ハルチン」も「るきさん」をリスペクトして産まれた作品だそうだ。色遣いや雰囲気、女性二人が出てくるあたりは近いが、内容は違う。リスペクトするのなら、これくらいのクオリティがないと世に出てはいけないと思う。
これから、この人はどうなるんだろうな。批判も多いと思うし。でもいいものも持ってると思うので、注目していこうと思う。