Anna Seghersアンナ・ゼーガースの文学

Sonderbare Begegnungen, 1973

奇妙な出会い

奇妙な出会い
新村浩ほか訳 明星大学出版部 1983.4.20 ISBN4-89549-053-X 1200円
Sagen von Unrischen, 1970

地上のものでない人びとの伝説(新村浩訳)

意表をついてSFである。幻想的な作品とも言えるが、むしろ宗教的な美しいメルヘンと呼ぶべきだろう。
高度な文明をもつ宇宙人が宇宙船で地球に飛来する。宇宙人は姿形が人間と同じで地球人と言葉も交わせる。地球は農民戦争、宗教戦争の時代で、戦争によって荒廃している。
最初にやってきた宇宙人はある少女によって天使と間違われ「ミカエル」と名付けられる。彼女の父は彫刻家で、その作品に彼は目をみはる。ミカエルの星には実用に役立たないものは何もなく、芸術というものを見たことがない。
戦争により作品が失われ、仲間によってミカエルと少女と父親は助け出される。少女は昇天し、父親はミカエルの星で失意のうちに過ごすが、師の間際に最後の作品を彫ろうとする。彼の死の時点で作品は仕上がらなかったが、娘と彫刻とともに埋められる。
時代が移り変わり、次の宇宙人メルヒオールが地球にやって来る。彼の方はそのまま地球に住みついてしまい、美しい妻と子供と水車小屋で生活をする。彼の星で何かが起こり、通信不能になったために、もう戻ることができず、郷愁にとらわれたままメルヒオールは死ぬ。ただ、彼の子孫は長い時間をかけて各地にちらばり、ほとんどのものは実務に長けた働き者だったが、ときおり一族の中で、何かに駆られるように突然姿を消す者もいた。

Der Treffpunkt, 1971

約束の場所(初見昇訳)

お得意の反ナチもの。さすがに腕がさえる。
少年の頃から堅い友情で結ばれ、成長すると、ともにナチズムと戦うハンスとエルヴィン。印刷工のエルヴィンはハンスから口伝えで文章を聞き、秘密のビラの印刷を行う約束になっていた。ナウムブルグの大聖堂で落ち合う、もし会えなければ次の日曜日にフルダで会うが、それでも会えなかった場合は毎月五日にゲルハウゼンの郵便局で落ち合うことになっていた。
ところがエルヴィンが臆病風に吹かれ、ナウムブルグで会えず、そのまま失踪。その後ハンスは逃亡し、スペインに赴く。何年もすぎて戦争が終わった頃、エルヴィンが何かのついでにゲルハウゼンに赴き、ふとその日が五日であることを思い出して郵便局に行ってみる。そこにはソヴィエト軍の軍服を着たハンスがいた。彼は闘い続けていたのだ。

Die Reisebegegnung, 1972

旅の出会い(井上正篤訳)

E.T.A.ホフマン(1776~1822)とゴーゴリ(1809~1852)がプラハで会う約束をして、そのカフェにたまたまカフカ(1883~1924)がいた、そこで3人で文学談義に花を咲かせ、お互いの作品について語り合う。3人とも生きていた年代があまり重ならないので、これもまたSFというべきか幻想作品というべきか。
作者の文学観が随所に織り込まれた、エッセイ風の作品とも言える。
2001.11.11