Die Hochzeit von Haiti, 1959
決断
道家忠道,北通文,新村浩訳 三一書房(三一新書)
1,2巻1960.11.7
3巻1960.12.6 各160円
あまり評価の高い作品ではないが、最後の長篇だ。唐突に手に入ったので、読んでみた。面白いことは、相変わらず面白い。そんなに低い評価でなくても良いと思うのだが。私はこういう複数の人物の同時期に進行する物語、いわば人物群像が錯綜するような小説が元来大好きなので、甘いかもしれない。
東独と西独の敗戦直後の復興期を描いた作品。戦前は一つの資本家のものだった工場が東と西に分かれてしまい、西では元の資本家の手に戻り、東では労働者のものとなる。東と西に分かれてしまった夫婦、西に逃げた人、東に残った人、ナチの残党、アメリカに亡命したドイツ人といった様々な人が登場する
ゼーガースの文学に親しんで来て、わりと唐突に登場人物が死ぬ、という特徴がある。が、慣れてくると、「あ、この人はそんな感じじゃないけど、もうすぐ死ぬな」とわかるようになる。それほど重い病気なようには描いてないのに、1行明けたら死んでるとか、大きな事故でもないのに、死んでいくんだなってわかるようなるし、悩んでいる度合いが大きくても、まさか、と思わせておいて自殺する。その辺の呼吸が読めるようになってきた。
ゼーガースは戦前に共産党員になり、戦後は東ドイツに移住した作家だが一概に東に傾いているわけではなく、東の「全体として」ものを見る点や「人に命令されることに慣れてしまっている労働者が自分たちのものになった工場を本当に自分たちで運営できるのか?」といった問題点も指摘している。西を徹底的な叩いているわけでも、東を持ち上げているわけでもない点が両方から評価が低いのかもしれない。ただ、やはり若干東よりだとは言える。
私は今では知っている。最初の五カ年計画は成功したものの、徐々に東と西との経済格差は広がっていくことを。だからといってむなしいイデオロギーのプロパガンダ小説だとはまったく思わないし、そういったことが延々と書いてあるような共産主義の文学ではない。物語としての面白さをきちんと保持している作品だ。
しかしながら、東の色が少し強くなっている分、教条主義的な感じから免れてないような印象が残ってしまう。どうしてこう共産主義というのは「計画」第一なのか、「失敗」すると自殺に追い込まれるまで糾弾されてしまうのか。融通がきかないというか、何というか。
東ドイツの工場の朝は早く、朝5時とかから始まったりしていたらしい。それで、午後3時頃終わって、夕方6:00とか7:00とかには寝ているらしい。農業や漁じゃないんだからさ。工場で、なんでそんなに早いかというと、エネルギーの節約なんだろうな、多分。それとも、第三次産業に合わせていたのかな。それだけで、退廃した西の文化に侵されている私は、東に行きたいと思わない。
現在は東も西もない。世界はまったく別の局面を迎えているのに、40年前の小説を何故夢中になって読んでいるのか、自分でも不思議だが、それはやはり単純に面白いだろう。
2002.9.30