Die Blienstock, 1953
蜂の巣
Sagen von Artemis, 1938
アルテミス伝説
大久保健治訳 「狂信の時代・ドイツ作品群 II おおわれた世代 1938~1945」M.ライヒ=ラニッキー編 学芸書林 1969.10.1
※初出:『国際文学』ドイツ号 第九巻 1938
猟師たちが森の酒場で語り合っている。老猟師の昔話では、かつて8人で森へ猟に出かけ、その時子供を一人連れて行った。子供の前にアルテミス女神が現れたが、その子は老猟師の放った矢に誤ってあたってしまい命を落としてしまった。
その時一緒にいた、という男はそれが二度目だったと語った。かつては百姓をしていて、祭りで出会った娘と競争をし、走っているうちに山に入り込んだが、ついに娘には追いつけなかった。その男はそのまま山を下りず、猟師となった。
壁で囲まれた町の見張り塔の番人から聞いた話、町へ出てから故郷の森へ帰って来た男の話。彼らの話の間中そばで聞いていた新しい女中の姿は突然消えてしまった。
Das Argonautenshiff, 1949
アルゴー船
大久保健治訳 「狂信の時代・ドイツ作品群 III 創られた真実 1945~1957」M.ライヒ=ラニッキー編 学芸書林 1969
森の中にある巨大な廃船、アルゴー船の船長イアーソーンの不思議な伝説。
Die Rückkehr, 1949
帰国
長橋芙美子訳 「世界文学全集 94 ゼーガース/A.ツヴァイク/ブレヒト」講談社 1976 840円
戦後、東ドイツへ戻ったゼーガースが、ナチズムを信じて育ち、戦後は何を信じていけばよいのか悩む若者たちに向けて発した書。
ソ連の抑留生活から帰国したフンクは家族の疎開先となっている妻の実家へ向かう。そこはソ連占領地区となっており、妻、賢い少女になった娘、出征したときには生まれていなかった息子と会う。それまでのソ連兵から受けた扱いやスローガンだらけの建物にうんざりしたフンクは東側に移住しようとするが、学校へ行きたがる娘の反対に遭い、まずは一人で東へ向かうことにする。
ベルリンのアメリカ占領地区に住む友人を訪ね、その後自分の生まれ故郷に戻る。有能な機械工だったフンクにはすぐに職がみつかるが、配置転換や思ったような仕事に巡り会えないことから失望する。自分の腕を生かせる仕事が待っている上、順調に進学する娘のため、家族の元へ戻ることにする。
東西分裂下のドイツの問題を扱ったゼーガースの最初の作品で、このときはまだ「占領区」レベルなので、比較的自由に行き来ができる。この頃の東から西への人の流出に対し、真剣に取り組んだ作品と言える。主人公が思想や主義ではなく、「仕事」と「家族」の面から東を選んだ結末には納得はできる。
ただ、現代において普遍的なテーマをもって読むことは不可能だ。どれほど真剣に「どちらが良いのか」という問題と向かい合い、単なる社会主義の「御用達文学」に堕ちていないとはいえ、釈然としないものは残る。それは彼がこれから毎日日の出とともに家を出、陽が落ちると家に帰ってきて、家族はいるが、テレビも娯楽も情報も何もない夜を過ごすことになる、ということがどうしても情景として浮かんでしまうからだろう。戦前・戦中の作品が目指す「人と人との信頼や連帯」「誰にも生きることを損なわれない平和」は誰にとっても必要欠くべからずの対象で、決して奪えないものだ。しかし、東ドイツの工場労働者の生活はある人にとっては幸福かもしれないが、大部分の人にとっては不幸だったりするからだろう。
戦前の作品は「時代に左右されない文学」としての普遍的なテーマと芸術性をもち、その後、社会主義ではなく「民衆」の力を主なテーマとして描いた作品を残したゼーガースだが、さすがにこの頃は多少古くささを感じざるを得ない。
第一歩,1952
平和の話,1950
判決
女移住者
トラクター運転手
鋳掛け屋
土地測量師
収穫祭
2001.11.17