ムッシュー・パン/ロベルト・ボラーニョ
ボラーニョ・コレクションというシリーズの中で内容的にも量的にも一番読みやすく、一気読みしてしまった。そのせいか、メモを残すのを忘れていた。
1938年のパリ、第一次大戦で肺をやられて戦傷者の年金で細々暮らしながら催眠療法/メスメリスムを学んだピエール・パンはしゃっくりが止まらない病で瀕死の夫の治療を頼まれる。ところがその前後から怪しいスペイン人の2人の男に尾行され...というフイルム・ノアール的な内容。モンマルトルの倉庫の中で迷って出られなくなるシーンやアラゴ診療所に潜り込むシーンは映像にしたらいいのにとゾクゾクする。
特に気になったのが海底墓地の水槽ジオラマ。水槽ジオラマはいろいろあるけれど、飛行機や列車の事故現場というのはなかなか突飛だ。沈没船の水槽ジオラマならわかるけれど。
ナチスに走った旧友プルームール=ポドゥーとの決別のシーンのカッコ良さの一方でマダム・レノーへの横恋慕という情けない感じもまたいい。映画という素材でテルゼフという人物を登場させたアイディアもおもしろい。
バジェホという名前が出たときに、すぐにセサル・バジェホだなとわかった。この亡命した詩人を貧しい南米人として登場させたのは自分自身も貧しい亡命作家だった若きボラーニョの思いが感じられる。
■原綴:Monsiur Pann, 1999 Robert Bola˜no
■書誌事項:松本健二訳 白水社 2017.1.25 194p ISBN978-4-560-09268-2(ボラーニョ・コレクション)