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2015年8月

2015年8月26日

松本隆 作詞活動45周年記念「風街レジェンド 2015」

風街レジェンド2015日時:2015年8月21日(金)19:30~22:30
会場:東京国際フォーラム ホールA

松本隆45周年記念のコンサート。でも2013年末に亡くなった大瀧詠一の成分が強いコンサートだったように思う。

私の目当ては、とにかく、はっぴいえんど。残念ながらリアルタイムでは聞いていない。でも、中学2年生のときにYMOの「ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー」が大ヒットし、高校に入学た年に大瀧詠一「A LONG VACATION」が街中で鳴り響いていたので、この細野晴臣&大瀧詠一がいたバンドって何だろう?と興味を持ち、そうすると、軽音学部にいた子がLPを3枚貸してくれて、おお、となって以来のファン。大瀧詠一がいないとは言え、はっぴいえんど再結成ならば、いかなくては。

はっぴいえんどの冒頭の3曲で充分満足したが、そこを除くと、この4時間の中で最高に素晴らしかったのが吉田美奈子の「ガラスの林檎」。このパフォーマンスは圧倒的。松本隆なのに松田聖子が出ないのは、ある意味当然なのだろうけれど、でもちょっと、と思っていたのだけれど、これを聞いてふっとんだ。吉田美奈子は自身が素晴らしい作詞家なので、松本隆から詞を提供されることはないだろうと思っていたが、こういうことか。後でパンフレットを見たら、ライブで歌っていたこととのこと。納得。NIAGARA TRIANGLEチームと南佳孝以外は懐かしの歌謡ショーになっていたのが、この前の矢野顕子と二人でぶっ飛ばしてくれた。矢野顕子「ポケットいっぱいの秘密」もまた素晴らしい。何を歌ってもあっこちゃん、になるのが矢野顕子。そう言えば、この人やYMOのライブは若い頃行ったなと思い出した。ただ「Woman」は薬師丸ひろ子に歌ってもらいたかった。

風街レジェンド 2015竹内まりやの「September」を歌ったのはEPOで、これは原曲をEPOがコーラスアレンジをしており、バックコーラスもつとめているからだろう。風街バンドの佐々木久美もまた竹内まりやのツアーメンバーだったりするため、アカペラで息のあったところを見せてくれて楽しかった。

南佳孝も相当好きなので、デビューの「摩天楼のヒロイン」から「LAST PICTURE SHOW」までの10枚がっつり持っていて、「SOUTH OF THE BORDER」からはリアルタイムで聴いている。当時は無自覚だったが、おそらく昔から私はボサノバが入ってる曲が好きだったのだろうと思う。

ねじれナイアガラ・トライアングル(伊藤銀次がvol.1、佐野元春・杉正道がvol.2)もよく聴いていた。リアルタイムで聴いたのは1982年3月のvol.2の方。山下達郎の「FOR YOU」が発売されたのが1982年1月で、アルバムジャケットからして「A LONG VACATION」の後継にあたるアルバムという印象だった。佐野元春「Someday」のアルバムの方が1982年5月に出ている。このあたり、私の記憶ではまるっとひとくくりだったりする。

山下久美子が元気そうで嬉しいのと、中川翔子が力強いボーカルで、なかなか。早見優、現役だなと思った。斉藤由貴は女優活動は現役だが、歌手活動からはちょっと遠ざかっているようで、若干気の毒な感じがした。

はっぴいえんど3曲の後、太田裕美の「木綿のハンカチーフ」の流れは非常に良かったが、原田真二に2曲歌わせる必要性があったのか。いや松本隆の詩としては必要性があったのかもしれないが、余計なMCは要らなかった。すごく時間の無駄と感じた。出て、歌って、すっと帰って行く、歌手の人たちが素晴らしく見えた。本当に、ここだけが残念だった。今回、喋って良かったのはナイアガラチームと矢野・吉田だけだろうと私は思った(イモ欽トリオは"箸休め"だからOK)。

木綿のハンカチーフ前日までに「休憩なし3時間半」とアナウンスがあり、予想していた「4時間」にほぼ近い感じで終わった。次、50周年もあるといいが。

おみやげは「木綿のハンカチーフ」

■セットリスト
※初日なので、安田成美と水谷豊はいない。私は矢野顕子を優先させた。


1. 夏なんです(松本隆、細野晴臣、鈴木茂)〔はっぴいえんど〕
2. 花いちもんめ(松本隆、細野晴臣、鈴木茂)〔はっぴいえんど〕
3. はいからはくち(松本隆、細野晴臣、鈴木茂、佐野元春)〔はっぴいえんど〕
4. 木綿のハンカチーフ(太田裕美)
5. てぃーんずぶるーす(原田真二)
6. タイム・トラベル(原田真二)
7. シンプル・ラブ(大橋純子)
8. ペイパームーン(大橋純子)
9. 三枚の写真(石川ひとみ)〔三木聖子〕
10. 東京ららばい(中川翔子)〔中原理恵〕
11. セクシャルバイオレットNO.1(美勇士)〔桑名正博〕
12. ハイスクールララバイ(イモ欽トリオ)
13. 赤道小町ドキッ(山下久美子)
14. 誘惑光線・クラッ!(早見優)
15. 「菩提樹」(鈴木准、河野紘子)〔フランツ・シューベルト〕
16. 「辻音楽師」(鈴木准、河野紘子)〔フランツ・シューベルト〕
17. 君は天然色(伊藤銀次、杉真理)〔大瀧詠一〕
18. A面で恋をして(伊藤銀次、杉真理、佐野元春)〔NAIAGARA TRIANGLE vol.2〕
19. Tシャツに口紅(鈴木雅之)〔ラッツ&スター〕
20. 冬のリヴィエラ(鈴木雅之)〔森進一〕
21. バチェラー・ガール(稲垣潤一)
22. 恋するカレン(稲垣潤一)〔大瀧詠一〕
23. スローなブギにしてくれ(I want you)(南佳孝)
24. ソバカスのある少女(鈴木茂、南佳孝)
25. 砂の女(鈴木茂)
26. しらけちまうぜ(小坂忠)
27. 想い出の散歩道(矢野顕子)〔アグネス・チャン〕
28. ポケットいっぱいの秘密(矢野顕子)〔アグネス・チャン〕
29. Woman"Wの悲劇"より(吉田美奈子)〔薬師丸ひろ子〕
30. ガラスの林檎(吉田美奈子)〔松田聖子〕
31. バンド紹介(風街ばんど)
32. 卒業(斉藤由貴)
33. September(EPO)〔竹内まりや〕
34. さらばシベリア鉄道(太田裕美)
35. ルビーの指環(寺尾聰)
EN 1. 驟雨の街(松本隆、細野晴臣、鈴木茂)
EN 2. 風をあつめて(松本隆、細野晴臣、鈴木茂+全員)〔はっぴいえんど〕

晴れたら空に豆まいて九周年記念 orange pekoe acoustic duo set

晴れたら空に豆まいて九周年記念 orange pekoe acoustic duo set 1日時:2015年8月22日(土)19:30~22:00
会場:晴れたら空に豆まいて

2時間半で10曲という、ゆったりとしたライブ。そうなった理由の一つはこの畳敷きの真ん中にミュージシャンが向かい合わせで座るという異例なセッティングによるもの。なんともくつろげる。まさに「友達のうちに遊びに来た」状態。

もう一つは前週の熊本で急性気管支炎になり、ライブ途中で声が出なくなるというアクシデントに見舞われ、その後なんとか治療したものの、なるべく穏やかに、というボーカルスタイルになったため。アップテンポな曲を避け、ゆっくりとしたナンバーを中心にセットリストが組まれたからだ。

晴れたら空に豆まいて九周年記念 orange pekoe acoustic duo set 3オレペコの二人も、一段高いところではない、しかも畳の上というのはこれまで経験がなく、向かい合わせも初めてらしい。普段はステージの上のモニタースピーカーで自分たちの出している音を聞いているが、この場合、客と同じ音を聞くことになるので、それも新鮮だったと話していた。

一番前を女性で、というリクエストは平地のため、座高が高い男性が前に座ると、うしろの女性が見えないから、という配慮だった。ちなみに、オレペコのライブの客層について言うと、やはり女性の方が多いが、男性もそこそこ来ている。年齢もばらけてる。20代~40代くらいだが、もっと上そうな人も結構いる。メインは30代。二人と同じ年代の人が多いのだろう。女性はペアかカップルが多いが、一人の女性もいるし、男性はどちらかというと一人が多いような気がする。一馬ファンのギター好きも結構いると思う。

晴れたら空に豆まいて九周年記念 orange pekoe acoustic duo set 3"Heavenly Summer"を演奏するのは珍しいが、これは季節がちょうど夏の終わりだから。"Calling You"は時々ライブでやるが、この曲もミニアルバムにしか入っていない。"Loop. Mind and Nature"なんて、商業デビュー前のシングルに入っていた懐かしの打ち込み時代の曲だ。
"Birthday Song"はこのライブ会場「晴れたら空に豆まいて」の9周年記念の一連のライブだから。"やわらかな夜""Love Life"といった定番に加え、"Oriental Jazz Mode"のいつものナンバー。アンコールの"New Days"はライブでみんなで歌うようにもってってるらしいが、こういう小さい車座に座っている状態だと余計に乗せやすい/乗りやすい。

途中、休憩が入ったり、トモジが書いた筆書きの「夏ペコ on the 畳」と「ギター馬鹿」をプレゼントするじゃんけん大会になったりと、楽しくのんびりとしたライブ。いつもよりMC長めで思ったのは、トモジが一馬くんをいじる量が多いこと。つまり、普段からずっとそうなんだろう。関西のボケ・ツッコミのノリというよりは、こうなるともはやSMだろうという域に。お土産にチロルチョコ二つ。トモジの描いたオレペコの絵。これは一馬くんの風体がジョン・レノンを目指しているところから。

晴れたら空に豆まいて九周年記念 orange pekoe acoustic duo set 4(ここのガンボスープがたいへんおいしゅうございました。クレオール料理なので豆が入ってるのかと思ったら、入ってないのが意外だった)。

私はオレペコのライブは久しぶりだった。1年以上行ってない。自分の都合で行けなかったこともあるが、トモジのNIAでの活動、その後の病気治療による休業などの影響。実際、トモジも東京ではオレペコとしては「凱旋公演」と言っていいほど久しぶりのライブだった。

それが、100人ほどのコアなファンによるアットホームなライブに仕上がったのは、実に良い体験だった。このライブはおそらくずっと二人にとっても記憶に残るものになるのではないだろうか。

■セットリスト
1.Heavenly Summer / Poetic Ore
2.Calling You /orange pekoe in Autumn
3.おくりもの / Wild Flowers
4.Loop. Mind and Nature
5.藤本一馬ソロ(ごめんなさい!わかりません)
6.Birthday Song /Modern Lights
7.やわらかな夜
8.flower /Oriental Jazz Mode
9.Love Life
(en)New Days /Oriental Jazz Mode

2015年8月17日

アメリカ大陸のナチ文学/ロベルト・ボラーニョ

アメリカ大陸のナチ文学ナチ時代から現代・少し先の未来に活躍した南米の右翼作家の人名事典という体裁の短編集。パロディと言っても良いかもしれない。私は事典・辞書の編集作業をしたことがあるが、事典には文体というものがある。主観をできるだけ排し、文字数に厳しい制限があるためシンプルで短い文章になる。この作品も文体は事典風にはなっているが、やはり文章の力が強くて、どう見ても短編集だ。
架空の作家ばかりだが、完全に架空ではなくて、アルゼンチンのこの地域にドイツ人の村があったかもしれないなどと思わせる信憑性もある。ボカ・サポーターにこんなバーバ・ブラバのリーダーがいたら、本当に伝説だろうな、などと想像することができる。
最後に突然一人称になって、事典風から短編小説に文体も変わる。内容も殺人鬼を追う探偵小説のようだ。

■目次
メンディルセ家の人々
エデルミラ・トンプソン・デ・メンディルセ
フアン・メンディルセ=トンプソン
ルス・メンディルセ=トンプソン

移動するヒーローたちあるいは鏡の割れやすさ
イグナシオ・スビエタ
ヘスス・フェルナンデス=ゴメス

先駆者たちと反啓蒙主義者たち
マテオ・アギーレ=ベンゴエチェア
シルビオ・サルバティコ
ルイス・フォンテーヌ・ダ・ソウザ
エルネスト・ペレス=マソン

呪われた詩人たち
ペドロ・ゴンサレス=カレーラ
<小姓>ことアンドレス・セペーダ=セペーダ

旅する女性作家たち
イルマ・カラスコ
ダニエラ・デ・モンテクリスト

世界の果ての二人のドイツ人
フランツ・ツビカウ
ウィリー・シュルホルツ

幻視、SF
J・M・S・ヒル
ザック・ソーデンスターン
グスタボ・ボルダ

魔術師、傭兵、哀れな者たち
セグンド・ホセ・エレディア
アマード・コウト
カルロス・エビア
ハリー・シベリウス

マックス・ミルバレーの千の顔
マックス・ミルバレー、またの名をマックス・カシミール、マックス・フォン・ハウプトマン、マックス・ル・グール、ジャック・アルティボニート

北米の詩人たち
ジム・オバノン
ローリー・ロング

アーリア同盟
<テキサス人>ことトマス・R・マーチソン
ジョン・リー・ブルック

素晴らしきスキアッフィーノ兄弟
イタロ・スキアッフィーノ
<デブ>ことアルヘンティーノ・スキアッフィーノ

忌まわしきラミレス=ホフマン
カルロス・ラミレス=ホフマン

モンスターたちのためのエピローグ
1.人物 2.出版社、雑誌、場所 3.書籍


■原綴:La Litteratura Nazi En América, 2007 Robert Bola˜no
■書誌事項:野谷文昭訳 白水社 2015.6.1 250p ISBN978-4-560-09265-1(ボラーニョ・コレクション)