最近読んだ本、見た映画・芝居、聞いたCD

2015年6月

2015年6月16日

少女ソフィアの夏/トーベ・ヤンソン

少女ソフィアの夏/トーベ・ヤンソン
1972年に刊行された、トーベ・ヤンソンの小説。6歳の少女とその父親、さらにその母親である年老いた祖母の3人がフィンランド湾に浮かぶ島で暮らす様子を描いた作品。モデルは祖母がトーベの母ハム、パパはトーベの弟のラルス、ソフィアはラルスの娘のソフィアである。トーベ自身はこのモデルについては言説を変えたりもするが、ほぼ間違いないように思う。トーベにとって、島の森や入り江での日々はよく見知ったものだ。

ここでは、主に祖母と少女の関係が描かれているが、二人はまったく対等にやりとりする。迷信や神様のことを考えたり、ソフィアが毎日いろいろなことを試みる。ガールスカウトよろしくテントで寝てみたり、立ち入り禁止の島に上陸してみたり、様々に素晴らしい体験をする、そんな夏のお話。原題は「夏の本」だ。

猫を飼ってみて、思い通りにならないことにいらだちながら、ソフィアは「愛」について考えてみる。

「愛って、変なものね...」と、ソフィアは言った。
「だれかがだれかを愛すれば愛するほど、相手は、ますます知らんぷりするのね。」
「そのとおり」おばあさんがうなずいた。「それで?そういうときには、どうしたらいいんだろうねえ?」
「愛しつづけるだけよ」ソフィアが、いどむように言った。「もっともっと愛し続けるの。」

島に球根を植えたのに雨が降らないとき、別の島へ水を取りに奮闘した後、おばあさんは考える。

神さまは助けてはくださるんだけど、人間が、自分がちょこっとがんばってからなんだよね...とおばあさんは思っていた。

春から夏の間だけ過ごす4ヶ月だけの生活だけれど、なんと豊かな生活なんだろうと、しみじみ思う。パパはあまり発言しない。でも、たくましくこの家を支えている。実務能力が高いというか、サバイバル能力が高い。そうでなければ、島で暮らすなんて出来ない。

ところでフィンランドの夏至祭りはたいまつが有名だが、海に木箱が浮かぶのだろうか?今はカラフルなろうそくが浮かぶようだが、その名残なのかもしれない。

■原綴:Sommarboken by Tove Jansson, 2007
■書誌事項:トーベ・ヤンソン著,渡部翠訳 講談社 1993.11.15 302p ISBN978-4-06-206691-4

2015年6月11日

トーベ・ヤンソン―仕事、愛、ムーミン/ボエル・ウェスティン

トーベ・ヤンソン―仕事、愛、ムーミントゥーラ・カルヤライネンのトーベ・ヤンソン伝記を読んだが、それでは片手落ちと人から言われ、その後に出た講談社の方の伝記を読んだ。前者が「絵」やアーティストとしての側面が強いのに比べると、こちらは文章家のヤンソンの部分に多くのページを裂いている。私はムーミン以後の小説家としてのトーベ・ヤンソンが好きなので、こちらの方がその意味では助かった。しかし、トーベの晩年の小説は、彼女のそれまでの生き様の集大成なので、伝記を読むとより感じる部分は大きくなる。

伝記的要素は両方ともそれぞれの個性があり、カルヤライネンの方が人間関係はしっかり書かれているように思う。アートスらの男性関係やヴィヴィカらの女性関係、母親ら家族との関係は多くの手紙から構成されているカルヤライネンの方の充実している。一方、「仕事」と「人間関係」のバランスの良さはウェスティンの方の伝記の方が優れているように思える。トーベの人生の出来事がどんなふうに作品に反映されているか、細やかに描かれている。

絵画と文学の間を行き来し、絵画と文学の両方を同時に創作しながら、著作の管理や契約まわりなどビジネスとも上手につきあえるなんて、なんてスーパーなんだろう。どちらかというと、こちらの方のトーベの方が人間くさいような...そんな感じ。向学のためにはカルヤライネンの方が充実するが、充実した伝記を読みたいと思ったら、このウェスティンのものが決定的なのだろう。


■書誌事項:ボエル・ウェスティン著,畑中麻紀,森下圭子訳 講談社 2014.11.25 658p ISBN978-4-06-219258-3
■原綴:Tove Jansson: Ord, Bild, Liv by Boel Westin, 2007

2015年6月10日

Tint/大貫妙子&小松亮太

Tint/大貫妙子&小松亮太2015年6月10日に発売された大貫妙子の最新アルバムはバンドネオン奏者・小松亮太とのコラボアルバム。小松亮太と大貫さんの出会いは2000年の「ensemble」収録の「エトランゼ~etranger」のレコーディングで、デビュー直後の小松亮太を指名し、セッションをしたのがきっかけ。山弦といい、大貫さんは若くて良いミュージシャンを発掘しますよね。シングル(愛しきあなたへ)から発展したアルバムなので、形になってよかった。

"Tango"は「LUCY」から、"Hiver"は「One Fine Day」、"エトランゼ"は「ensemble」、"突然の贈りもの"は定番。"エトランゼ"は前述の通り、もともと小松が参加している作品だが、今回はずいぶんとゆったりとした雰囲気に変わってる。"突然の贈りもの"が最初に発表されたのは「MIGNONNE」での収録だが、最近では「Pure Acoustic」からのバージョンが使われることが多い。今回のタンゴバージョンもおもしろい。


"愛しきあなたへ"はこのアルバムのきっかけとなった二人の合作で、2014年秋に放送されたNHKラジオ深夜便「深夜便のうた」のテーマ曲。シングルになっている。

"ホテル"は2008年10月にビルボードライブ東京で初披露された大貫妙子と小松亮太が最初に合作した曲。

"ハカランダの花の下で"はエクトル・スタンポーニによるタンゴの名曲「最後のコーヒー El Ultimo Cafe」(1963)に大貫妙子が新たに日本語詞をつけたもの。オリジナルの日本語歌詞を観ましたが、なんていうか...ベタベタな感じなので、全然こちらの歌詞の方がいいです。

"1980年代"、"我々はあまりに若かった"、"リベルタンゴ"の3曲はタンゴのインストゥルメンタル。

以上、オリジナルは2曲、カバーが4曲(うち3曲インスト)、セルフ・カバーが4曲の合計10曲。一応オリジナルの新曲も入ってるので、良しとしないとならないんだけども、最新アルバムは2010年の坂本龍一との「UTAU」、オリジナルアルバムは2007年の「ブックル・ドレイユ」。これはアレンジをやり直して録音し直した曲が多く、完全にオリジナルと言えるのは2005年の「One Fine Day」までさかのぼらないとならない。もう10年か。オリジナルアルバム出さないのかなぁ。


1. 1980年代 [inst] (作曲・編曲:オマール・バレンテ)
2. Tango (作詞:大貫妙子,Fernando Aponte/作曲:坂本龍一/編曲:小松亮太)
3. Hiver (作詞・作曲:大貫妙子/編曲:森俊之/ストリングスアレンジ:熊田洋)
4. エトランゼ~etranger (作詞・作曲:大貫妙子/編曲:国府弘子)
5. 我々はあまりに若かった [inst] (作曲・編曲:レオポルド・フェデリコ)
6. 愛しきあなたへ (作詞:大貫妙子/作曲:小松亮太,大貫妙子/編曲:小松亮太)
7. ハカランダの花の下で (日本語詞:大貫妙子/作曲:エクトル・スタンポーニ/編曲:オマール・バレンテ)
8. リベルタンゴ[inst] (作曲:アストル・ピアソラ/編曲:小松亮太)
9. ホテル (作詞:大貫妙子/作曲:小松亮太/編曲:小松亮太)
10. 突然の贈りもの (作詞・作曲:大貫妙子/編曲:小松亮太)