『ユリイカ』2014年7月号 ガルシア=マルケス―『百年の孤独』は語りつづける
ガルシア=マルケスの追悼特集であり決定本である。スペイン語翻訳者、ラテンアメリカ文学者が一堂に会した豪華な特集。一つ一つの論文をじっくり読まないと、これからのガルシア=マルケス研究は進められないだろう。
旦敬介の文章の最後が衝撃的。新潮社が文庫にしなかったから、今の大学生でガルシア=マルケスの名前を知ってるのは1%余り。ハードカバーでも売れるもの、文庫にしたら利益率が下がるからしないのは当面のビジネスとしては当然の判断だが、先々の読者人口を考えて、決断できなかったものかなと、私も思う。
エクトル・アバッド=ファシオリンセの文章は、おもしろかった。一番批判の多い作品「落葉」と「わが悲しき娼婦たちの思い出」を取り上げたかと思うと、「お金でいっぱいのトランクを抱えた男がやってくる」のエピソードや「権力に魅了されていることは、間違いなくガルシア=マルケスの性格の弱点の一つだった。とは言え...」そういう性格だから、「族長の秋」みたいなのが書けたんだよねっていう、単純明快な結論の出し方もすがすがしい。ガルシア=マルケスが攻撃されている理由にも多々触れながら、論を進めて行くことがなんだか新鮮に感じられる。
"「百年の孤独」エミュレータ"は傑作だ。アプリにしたい。
■目次
◇ガルシア=マルケス縦横無尽
ラテンアメリカというアマルガム―ガルシア=マルケスと世界をつなぐ(野谷文昭,ヤマザキマリ)
◇追想
〈牛〉に引かれて白馬へ(鼓直)
ガルシア=マルケスとケルト幻想(木村榮一)
ガボ夫妻との三〇年(田村さと子)
ガルシア=マルケスの中の不在(旦敬介)
◇作家の生と死
書く魂(エクトル・アバッド=ファシオリンセ著,久野量一訳)
文字の都市の住人たち ガブリエル・ガルシア=マルケスに対するアンヘル・ラマの共感と差異の感情(柳原孝敦)
孤独と物語 『族長の秋』に見る孤高の作者像(寺尾隆吉)
◇六の遍歴の物語
悲劇を現実化する傍観者たち(星野智幸)
幽明の境で会ったひと(谷崎由依)
「歯を抜かないと撃つと言ってるよ」(福永信)
マルケスという神(井上敏樹)
ガルシア=マルケスの修業時代(樺山三英)
万華鏡越しの世界(池澤春菜)
◇リアリズムの行方
ラテンアメリカを引き継ぐ―ジュノ・ディアス『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』と北米の魔術的リアリズム(都甲幸治)
「マジカル・リアリズム」という記号、世界文学を通して知る〈世界〉(河野至恩)
巨木と下生え ガルシア=マルケス、ボラーニョ、あるいは無数の作家たち(松本健二)
◇物語の響く場所
欲望と倒錯(丹生谷貴志)
フォークナーとガルシア=マルケスのフラット・キャラクターたち(小林久美子)
ガルシア=マルケスとバジェナート(山口元一)
いくつもの世界のひしめく文学(見田悠子)
『百年の孤独』エミュレータをもとめて(飯田一史)
◇語り伝えられるもの
『百年の孤独』の作家の百年 ガルシア=マルケス年譜(書肆マコンド)
■書誌事項:青土社 2014.7.1