鼻持ちならないガウチョ/ロベルト・ボラーニョ
「鼻持ちならないガウチョ」を「老いぼれグリンゴ」のようなイメージで読み始めたら、あたっていた部分もあるが、大枠では外れていた。わがままに生きることが出来なかった紳士が最後に挑戦したのが「ガウチョ」。「男のロマン」的な意味合いが強いチャレンジだったようで、「鼻持ちならない」感じが確かにする。牛はおらず、兎を追うだけ。なんと情けない。それでも、頑張って彼は続けるのだ。「ガウチョ」ごっこ」を。最初は悲惨かつ滑稽だと感じたが、次第にその悲哀のある姿に何故か胸うたれていく。
「鼠警察」は最初「鼠」というあだ名の警官の話なのかと思ったら、本当に「鼠」の話で驚く。鼠の世界ではあり得ない鼠による鼠を殺す殺人(殺鼠?)事件を追う、ハードボイルドな本格派ミステリー。「2666」での連続殺人を想起させるお話。
「アルバロ・ルーセロットの旅」は「剽窃」、今ならさしずめ「著作権違反」?をテーマにした作品で、相手を糾弾することを意図的に行わず、ひそかに剽窃されることに喜びを見出し、剽窃されなくなると寂しく感じたりする、奇妙な作家の気持ちを追ったもの。最後に、相手を追い詰めたつもりはなかったのに、結果的にそうなってしまったことは、確かに寂しさを感じる。
「二つのカトリック物語」は一度全部読んだら、戻って、それぞれ「I 天職」の1を読んだら「II 修道士」の1を読む、という作業をするとわかる。この二つの物語は合わせ鏡のようになっている。
「クトゥルフ神話」を読むと、あぁ、現代のスペイン作家もアメリカ人の作家と同様、いろいろと忙しいのだなと思う。現代作家は大変だ。
■目次
ジム
鼻持ちならないガウチョ
鼠警察
アルバロ・ルーセロットの旅
二つのカトリック物語
文学+病気=病気
クトゥルフ神話
解説 青山南
訳者あとがき
■原題:EL Gaucho Insurfrible by Roberto Bolaño, 2003
■書誌事項:久野量一訳 白水社 2014.4.10 183p ISBN978-4-560-09263-7