ラテンアメリカ傑作短篇集―中南米スペイン語圏文学史を辿る
近現代のラテンアメリカ文学の短篇集。この本の最も重要な作品は冒頭の「屠場」だろう。アルゼンチン独立に向けての一シーン。すさまじい混乱と熱気のこもった作品だ。リアリズムのスタイルでありながら、ロマンチシズムあふれる作品で、この混乱から子供が死んでしまうあたりに、ハインリッヒ・フォン・クライストの「チリの地震」を思い起こした。
「アナコンダ還る」のアナコンダがおそろしいどう猛な生き物であるにもかかわらず、女性の設定になっている理由が後の方になってわかる。アナコンダは理屈に合わない衝動にかられて人間を助け、結果自分は死んでしまうけれど、その前に卵を産む。自分が新しい生命を生みだす力を、その人間がもっていることを、アナコンダは直感的に知っていたのかもしれない。
「田舎暮らし」のようなみっともないけれど、ロマンチストな男性はラテンアメリカ文学によく出てくるような気がする。マッチョな男性より、こういう男性の方が物語として描きやすいのもあるのだろうけれど、実際のところ、意外とみんなこんなものなのかもしれない。
できれば全作品触れたいが省略する。しかしおもしろい短篇が詰まっている。
目次
「屠場」(1838)エステバン・エチェベリーア/アルゼンチン
「レースの後で」(1883)マヌエル・グティエレス・ナヘラ/メキシコ
「ルビー」(1888)ルベン・ダリオ/ニカラグア
「12 番ゲート」(1904)バルドメロ・リリョ/チリ
「インディオの裁き」(1904)リカルド・ハイメス・フレイレ/チリ
「田舎暮らし」(1906)アウグスト・ダルマール/チリ
「持ち主のない時計」(1918)ホセ・ロペス・ポルティーリョ・イ・ロハス/メキシコ
「アナコンダ還る」(1926)オラシオ・キロガ/ウルグアイ
「一杯のミルク」(1929)マヌエル・ロハス/チリ
「その女」(1932)フアン・ボッシュ/ドミニカ
「ラモン・イェンディアの夜」(1933)リノ・ノバス・カルボ/キューバ
「会話」(1936)エドゥアルド・マリェア/アルゼンチン
「雨」(1936)アルトゥーロ・ウスラル・ピエトリ/ベネズエラ
「新しい島々」(1938)マリア・ルイサ・ボンバル/チリ
「マラリア」(1952)ビクトル・カセレス・ララ/ホンジュラス
「捕虜」(1953)アウグスト・ロア・バストス/パラグアイ
「赤いベレー」(1954)ロヘリオ・シナンストス/パナマ
「カバジェーロ・チャールス」(1964)ウンベルト・アレナル/キューバ
書誌事項:野々山真輝帆編 彩流社 2014.1.31 356p 3,000円+税 ISBN978-4-7791-1969-9