最近読んだ本、見た映画・芝居、聞いたCD

2013年9月15日

オン・ザ・ロード

オン・ザ・ロードジャック・ケルアックの「オン・ザ・ロード」を初めて読んだのは20代前半だった。この装丁の文庫本の頃だ。その後もずっとケルアックの作品だけは読み続けている。バロウズやギンズバーグは代表的な作品だけしか読んでいないから、ビートに夢中というほど読んでいないが、ケルアックは好きだった。

その「オン・ザ・ロード」をウォーター・サレスが撮ったと聞いたとき、よく映画化出来たなとも思ったし、ウォーター・サレスだから出来たんだろうなとも思った。「モーターサイクルダイアリーズ」もロードショーで行ったし、それ以前に「チェ・ゲバラ モーターサイクル南米旅行日記」を読んでいた。ロード・ムービー好きとしては、これは映画館に観に行かなくてはと思った。

当時の旅の風景が見られればいいくらいの気持ちで行ったが、その点については満足した。1950年代のアメリカの風景を現在のアメリカだけで撮影するのはやはり無理なのか、メキシコやカナダはともかくアルゼンチンやチリにまで撮影に行ったようだ。それとも「モーターサイクル・ダイアリーズ」で使ったところがよかったのかもしれない。

自分でも意外だったのが、ケルアックやニール・キャサディのイメージが頭の中で結構出来上がっていたこと。特にニール・キャサディはもっとワイルドでガタイがいい筈だ、と思って違和感が強かった。もっとすごい勢いで喋っていたし、放射する熱がすごいのだと思っていたから。考えてみたら、そもそも私がケルアックに向かったのは、ヒッピー・カルチャーから遡ってのことだから、ニール・キャサディのことはケン・キージーとメリー・プランクターズの珍道中を描いたトム・ウルフの「クール・クールLSD交感テスト」から入ることになる。もう少し年齢を重ねたニール・キャサディだが、本当に恐ろしいような運転をする、ひどくエネルギッシュな人物だったことがよくわかる本だ。だから2回出てきた踊るシーンはニール・キャサディのすさまじさが伝わってきて良かった。必要なシーンだったと思う。

アレン・ギンズバーグだけは実物より美少年で、ゲイっぽくてよかった。何と言ってもビゴ・モーテンセンのバロウズが私のイメージのバロウズにピッタリ過ぎるのがキャストについては一番納得した。キャロリン・キャサディはもう少しインテリで上品なイメージだが、メリールウは非常にセクシーかつコケティッシュでよかった。下のキャストの部分、実物の写真にリンクを貼った。肝心のケルアックについては、内向的な雰囲気が出ていたように思う。スティーブン・ブシェミがゲイのおじさんで少しだけ出ていたことに驚いた。

映画化にあたり、そもそも「何を撮ればこの作品が伝わるか」という点から厳選されたシーンばかりだったように思う。父親のお葬式から始めたのは初稿原稿からすると正しい。ニール・キャサディの父親を捜すシーンや二人で父親の話をするシーンはまずは「父からの脱却」というテーマを押さえる上で前提条件。母親とケベック・フランス語で話すシーン、マルセル・プルーストの「失われた時を求めて―スワン家の方へ」を側においておく。ジャズのライブを入れたり、前述のダンス・シーンやマリファナのスタイル(当時は割って出すやり方だった)や煙草の吸い方や酒の瓶まで、一つ一つていねいに演出されているように見えた。

特に、ケルアックが四六時中メモをしているところや、有名な"タイプライターの用紙をつなげてジャズの演奏をしているように休まず打った"のシーンは特に重要だったと思う。旅のシーンだけでも充分満足したのに、


ケルアックというと、確かに旅には出るけど、帰るところはいつもお母さんのところなんだよね、自立してないね、と思うと若い頃はなんだか興ざめだったが、年齢を経るとなんだかそれも納得できる気がしてくるから不思議だ。ケルアックの作品は好きだが、作品からにじみ出るマザコン/マッチョのセットを思うと、評伝はちょっと読む気になれなかった。でも、ルーアン・ヘンダーソンの評伝「ガールズ・オン・ザ・ビート」やキャロリン・キャサディの「ハートビート」あたりは時間があれば読んでもいい気がしてきた。


公式サイト:http://www.ontheroad-movie.jp/
監督:ウォルター・サレス
製作:レベッカ・イェルダム/ロマン・コッポラ/ナタナエル・カルミッツ/シャルル・ジリベール
製作総指揮:フランシス・フォード・コッポラ/ジェリー・レイダー/テッサ・ロス/アーパッド・ブッソン
原作:ジャック・ケルアック
出演:
サム・ライリー(サル・パラダイス→ジャック・ケルアック
ギャレット・ヘドランド(ディーン・モリアーティ/ニール・キャサディ
トム・スターリッジ(カーロ・マルクス/アレン・ギンズバーグ
ビゴ・モーテンセン(オールド・ブル・リー/ウィリアム・バロウズ
クリステン・スチュワート(メリールウ/ルアンヌ・ヘンダーソン
キルスティン・ダンスト(カミール/キャロリン・キャサディ
エイミー・アダムス(ジェーン/ジョーン・ヴォルマー
ダニー・モーガン(エド・ダンケル/アル・ヒンクル)
エリザベス・モス(ギャラテア・ダンケル/ヘレン・ヒンクル)
アリシー・ブラガ(テリー/ベア・フランコ

路上クール・クールLSD交感テスト