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2013年5月28日

彫刻家の娘/トーベ・ヤンソン

彫刻家の娘年に1回くらい突然読みたくなるトーベ・ヤンソン。大人向けの小説をいつも読んでいるが、これは自伝的小説で、読者はおそらく中学生以上を想定しているのではないだろうか。ルビをふってある漢字と内容からそう感じた。というのも、ローラ・インガルス・ワイルダーの岩波少年少女文庫に入っている方の小説によく似た雰囲気があるからだ。そして、私はこういうのがとても好きだ。

少女の視点から世界を描いているが、まず父母が素晴らしい。少女にとっては父は「冒険」で母は「信頼」そのものであると後書きにあった。彫刻家の父と画家の母。しかも母はガールスカウト創始者。嵐でテンションが上がる父親と、つられて一緒に上がっていく母と娘。両親とともにいることを少女がとても心地よく感じていることが伝わってきて、暖かい気持ちになれる。

また、少女は一人でなんでもチャレンジしようとする。重い石を家まで運んだり、地質調査の人についていったり、これは一人ではないがボートで霧にまかれてしまったり。かなり危なっかしいが、その自立心が快い。

少女特有の想像力が展開していく部分もあるが、実際的な話が多いのも好み。クリスマスの話が好きだ。クリスマスはやはり準備が楽しい。もみの木を選んで運んでくるところとか、ワクワクする。お料理はわりあいシンプルだが、この家は飾り付けがすごい。芸術家夫婦が粘土で聖母マリアの人形などささっと作ってしまう。

エキセントリックな叔母や老女・ファニーなど、おかしな人もたくさん登場する。地質調査の彼とこの叔母を足して二で割るとヘムレンさんになるような気がする。ムーミンパパとムーミンママは間違いなく両親だが、それ以外の登場人物のモデルは彼女が子供の頃から大人になるまでに出会った人々だろう。

現実と空想、孤独と調和、田舎と都会、自然と芸術、そういったものたちのバランスがちょうどいい。自分がバランスを崩しそうになっているときに、きっと読みたくなるんだろうと、あらためて気付かされる。

筑摩書房のトーベ・ヤンソン・コレクションは絶版だが、この自伝的小説はまだ新刊で買うことができる。比較的入手しやすいので、ムーミン好きは読んで、モデル探しをして欲しい。


著者:トーベ・ヤンソン著,富原真弓訳
書誌事項:講談社 1991.11.11 386p ISBN978-4-06-205584-8
原題:Bildhuggarens Dotter by Tove Jansson, 1968


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