洪水/ダニエル・アラルコン
文芸誌に掲載された短篇翻訳小説が気になってわりと読んでいるのだが、この作品は最近では気に入った一つ。ダニエル・アラルコンの作品は「ロスト・シティ・レディオ」が同じ訳者の手により翻訳されている。彼は1977年にペルーに生まれたが、幼少期にアメリカ合衆国に移住しているので、英語で書く南米作家の一人だ。この作品はデビュー作である短篇集"War by Candlelight"の中の一篇だそうだ。
地域のギャング同士の抗争に明け暮れる少年たち。彼等が「生きている」と感じるのは暴力の中でだけだ。その小さな抗争が洪水の際には思わぬ事件に発展する。彼等のような少年が憧れるのは暴力の権化と言える軍隊に入った兄貴分の青年だ。小さな暴力が中くらいの暴力に焦がれ、そしてその中くらいの暴力はより巨大な暴力に飲み込まれていく。
簡潔な言葉と暴力性がバルガス=リョサの初期作品を思い起こさせてしまう。彼等の「憧れ」は日本にいる昔ながらの不良少年たちと何も変わらない。その純粋さがかえって美しく見えてしまうから不思議だ。
ダニエル・アラルコンは長編第2作"At Night We Walk in Circles"を5月頭に刊行する予定。翻訳されないかな。
著者:ダニエル・アラルコン著,藤井光訳
初出誌:文學界 2013年4月号 p84~94
原題:Flood : Daniel Alarcón, 2005