最近読んだ本、見た映画・芝居、聞いたCD

2013年4月

2013年4月22日

orange pekoe with 吉澤はじめ Live at Motion Blue YOKOHAMA

orange pekoe with 吉澤はじめ  Live at Motion Blue YOKOHAMAorange pekoe with 吉澤はじめ Live at Motion Blue YOKOHAMA 1st Stage

去年はナカジマトモコさんの誕生日にやったモーションブルー(2012年6月2日のMotion Blueでのライブ)で、ほぼ1年ぶりに、今度は3人で。吉澤はじめ氏のソロも聴けるなぁと思っていたら、2曲有名どころをやってくれました。藤本一馬氏のソロも最新アルバムの頭の曲。Elis Reginaからの2曲はピアノが同じなので、そのまんまな感じだし、いつものライブでの定番もやってくれました。全体的にお得な感じです。

この前見たのがビッグバンドだったので、3人編成の静かめな演奏でよかった。特に「やわらかな夜」があのやわらかいキーボードの音で聴くことが出来たのは幸せでした。

この手のお食事どころのライブは2ステージが通常のようです。開場から開演まで1時間半。ここで食事をさせると。食事セットで2ステージやらないと、この手の小箱で「着席」では儲からないってことなんでしょうか?演奏時間が80分程度なので、一つのライブとしては確かに物足りず、そのため1st2nd両方見る人も多いです。それでも「着席」の意味は大きい。一定年齢以上にとってはスタンディングはキツイですからね。

毎回思うのだけど、ともじ、上半身の衣装を下げる仕草が気になるよ。無理せず、歌に集中できる衣装を着て下さい。

1.The Pledge of Friendship(藤本一馬「Dialogues」
2.Happy Valley(orange pekoe「Happy Valley」2002 single)
3.I am with you(吉澤はじめ「Hajime Yoshizawa」
4.Vera Cruz(orange pekoe「Tribute To Elis Regina」
5.Corrida de Jangada(orange pekoe「Tribute To Elis Regina」
6.君の夜空(orange pekoe「Grace」
7.Home(吉澤はじめ「JAPAN」
8.空に架かるCircle(orange pekoe「Happy Valley」
9.River of Love(Sleep Walker「Works」
10.やわらかな夜(orange pekoe「やわらかな夜」2002 Single)
--------アンコール-----
11.LOVE LIFE(orange pekoe「Organic Plastic Music」

2013年4月19日

洪水/ダニエル・アラルコン

文学界 2013年4月号文芸誌に掲載された短篇翻訳小説が気になってわりと読んでいるのだが、この作品は最近では気に入った一つ。ダニエル・アラルコンの作品は「ロスト・シティ・レディオ」が同じ訳者の手により翻訳されている。彼は1977年にペルーに生まれたが、幼少期にアメリカ合衆国に移住しているので、英語で書く南米作家の一人だ。この作品はデビュー作である短篇集"War by Candlelight"の中の一篇だそうだ。

地域のギャング同士の抗争に明け暮れる少年たち。彼等が「生きている」と感じるのは暴力の中でだけだ。その小さな抗争が洪水の際には思わぬ事件に発展する。彼等のような少年が憧れるのは暴力の権化と言える軍隊に入った兄貴分の青年だ。小さな暴力が中くらいの暴力に焦がれ、そしてその中くらいの暴力はより巨大な暴力に飲み込まれていく。

簡潔な言葉と暴力性がバルガス=リョサの初期作品を思い起こさせてしまう。彼等の「憧れ」は日本にいる昔ながらの不良少年たちと何も変わらない。その純粋さがかえって美しく見えてしまうから不思議だ。

ダニエル・アラルコンは長編第2作"At Night We Walk in Circles"を5月頭に刊行する予定。翻訳されないかな。

著者:ダニエル・アラルコン著,藤井光訳
初出誌:文學界 2013年4月号 p84~94
原題:Flood : Daniel Alarcón, 2005

「ロスト・シティ・レディオ」

CAFE BLEU SOLID BOND/naomi & goro

CAFE BLEU SOLID BOND私の生涯ベスト3に入るアルバム、スタイル・カウンシルの「Café Bleu」をそのままフルでカバーするというバンドが日本で出た。このサイトのタイトルはスタイルカウンシルのアルバムから来ているので、とりあえずこのnaomi & goroのアルバムを聞かざるを得ないし、何か少しでも書かざるを得ない。ギター&ボーカルのユニットだそうで、しかもボサノヴァ系。

このフル・カバーアルバムのことはもちろん歓迎しているし、応援しなくてはと思う。好きなものが一緒の人がいるということは間違いない。パリス・マッチの杉山洋介さんも同じ感じで見ている。

ところが、最初にちょっと躓く。"Mick's Blessings"はバイクの効果音からスタートしている。悪いとは言わないけど、こういう奇をてらったやり方はあまり好きじゃない。それと、何故あえてピアノを使わないのかなと疑問

"The Whole Point Of No Return"は元の曲もギターなので原曲に素直な感じで突然好感度アップ。歌も女性ボーカルで、やわらかいけれど、ボサノバを歌う人特有のふわふわと線の細いところがなく、低音をきちんと出せているところがいい。うん、これは聴ける。

"Me Ship Came In!"はいかにもボサノヴァなアレンジ。ピアノもちゃんと入ってるし。と好感度をあげていくと、"Blue Cafe"で私の嫌いなストリングスが来てしまい...。これこそギターオンリーでもいいのになぁ。

"The Paris Match"は女性ボーカルの方がいいのだけど、ミズノマリさんがようやく歌えるようになってきたのに、先にレコーディングされてしまったのは、私としては彼女の成長をずっと待っていた分、少々悔しい。ライブで聞いた限りでは、あちらの方が私のイメージには合ってる。そもそ、トレイシー・ソーンは繊細ながらとても声が太いイメージので、こういういかにもボサノヴァっぽい歌い方はあまり馴染まない。"The Whole Point Of No Return"の方が良かったと思う。でも伴奏のギターの方は悪くない。

"My Ever Changing Moods"は2種類入ってるが、こちらのアレンジはシンプルバージョン。演奏の方はせっかくバンドバージョンと両方あるのなら、もう少し静かめでもよかったように思うが、この歌はまぁまぁかなと思う。

"Dropping Bombs On The Whitehouse"はフォーンセクションがメインでリズムが複雑なので、おもしろい曲になってる。ストリングスが少しだけ余計。

"A Gospel"はゆったりしたラップに仕上げてきた。この中では一番変わった仕上がりになっている。これはこれで全然原曲をとどめてないため、よい仕上がりなのではないだろうか。

"Strength Of Your Nature"雰囲気違う。原曲は力強い男声ボーカルだから、仕方がないのか。この弱々しいコーラスはちょっと合わない。ギターが面白いので、そこはいい。

"You're The Best Thing"は私はベースラインがすごく好きなので、そこはちゃんと雰囲気が出ていてよかった。

"Headstart For Happiness"こちらも本当は派手なので、まぁおとなしくオシャレっぽく仕上げるよりほかないような気はする。歌もかなりパワフルなので、そのまま再現するのは無理がある。なので無難におさめたのは、実は大変だったのかもしれない。

"Council Meetin'"このくらいになるとだんだん、この感じが心地よくなってくるから不思議だ。かわいい曲。

"My Ever Changing Moods"こちらはバンドバージョン。ゆったりとした感じのフォーンセクションがなんだかふわふわといい感じに仕上がっている。

"English Rose"これはJamの曲なのだが、わざわざ"Cafe Bleu"に入っていない曲を最後にボーナストラック的に取り上げたのは何故なんだろう?アルバムタイトルに"SOLID BOND"がついてるのは当然"A Solid Bond In Your Heart"の流れなのだろうけれど、JamとThe Style Councilの両方で演奏された、狭間感満載の曲を意図的に取り上げたのかなという気がする。ならなぜ"A Solid Bond In Your Heart"を入れずにわざわざ"English Rose"なのかな。Jam Versionはそんなにやりにくい感じでもないのに。


全体的に徐々にこちら側の音に慣れてきて、心地よくなっていったのは確か。演奏やアレンジのクオリティは高い。でもまぁオリジナルの方が好きだけれど、オリジナルを熱烈に好きな人でも「そう悪くないな」と思えるんじゃないかな。

CAFE BLEU SOLID BOND/naomi & goro
2013.3.6

1. Mick's Blessings
2. The Whole Point Of No Return
3. Me Ship Came In!
4. Blue Cafe
5. The Paris Match
6. My Ever Changing Moods
7. Dropping Bombs On The Whitehouse
8. A Gospel
9. Strength Of Your Nature
10. You're The Best Thing
11. Here's One That Got Away
12. Headstart For Happiness
13. Council Meetin'
14. My Ever Changing Moods (Band Ver.)
15. English Rose (from All Mod Cons / The JAM)

このアルバムの専用のCAFE BLEU SOLID BONDというサイトがある。「Solid Bond」をつけてるから関係ないと思うが、おそらく一応は「cafebleu」でドメイン検索されたのではないだろうか。私がこのドメインを取得したは多分1999年頃。古くからあってずっと稼働しているドメインってSEO的にはおいしいのかもしれない。私もお金がなくならない限り、これだけは絶対一生もってると思う。ごめんなさい。

2013年4月 3日

アンデスのリトゥーマ/バルガス=リョサ

アンデスのリトゥーマ長年、なぜ「アンデスのリトゥーマ」は邦訳が出ないのか疑問だった。同じ人物が主人公の「誰がパロミノ・モレーロを殺したか」1992年に出ているし、「楽園への道」(2003)ですら出たのになと思っていたら、ようやく2012年に刊行された。

リトゥーマはおなじみの登場人物で、これで3回目の登場になる。まっすぐでいい男だと思う。山岳部=アンデスというのは、自然環境が人間に厳しく、暗く救いようのない物語になりがちだ。そこを救っているのが、助手トマスのロマンチックな恋物語である。

アンデス山中奥地のインディオの村ナッコスに赴任しているペルー治安警備隊のリトゥーマ伍長が助手のトマスと行方不明になった3人の男たちの消息を探る。口のきけないペドロ・ティノーコ、アルビノのカシミーロ・ワルカーヤ、道路工事の現場監督のデメトゥリオ・チャンカの3人である。リトゥーマは捜査をしていたが、一向に真相がわからない。本部より指示があって過激派に襲われた近くの鉱山へ出向き、教授と呼ばれる外国人と出会ってアプや生け贄の話を聞く。ナッコスに戻る途中で山津波(山崩れだと思われる)に出会い、九死に一生を得る。最終的には、証拠はないものの、リトゥーマは3人に何が起こったか知ることになる。

リョサの小説はほとんど常にいくつかの物語が錯綜して語られる。大枠は3本となる。

  1. 3人の男が行方不明となった現在のナッコス。
  2. トマスとメルセデスの恋物語。少し前。

  3. 上記二つの線はずっと継続しているが、以下の物語は出入りがある。
    • マチュピチュへ行く途中のフランス人の新婚夫婦の受難。
    • ペトリート・ティノーコの物語。
    • アンダマルカの人民裁判。
    • ダルクール夫人の受難。
    • アルビノのカシミーロ・ワルカーヤの物語。

    • 最後に、以下の物語が分断されて入る。
    • アドリアーナの語るピシュターコ、ティモテオ、ディオニシオとの物語。(→ギリシャ神話がモチーフ)

私が一番気持ちをやられてしまったのは、ペドリート・ティノーコの物語だ。口のきけない少年は南米のこの厳しい環境で、親もいないのにどうやって大人になり、生きていくのだろう。村の人たちの役に立つことでなんとか生き延び、ビクーニャに受け入れられ彼等を見守ることで平和に暮らしていたのに。政治は否応なく彼のような人物にもふりかかる。ペドリート・ティノーコを何故トマスが連れて来たのかという告白を聞いたときのリトゥーマの怒りは、彼がまっとうな人間であることをよく現している。そしてまた、リトゥーマはペドリートに対してと同じように山棲みのインディオたちの辛い生活にも思いを馳せ、暗い気持ちになる。


「ピシュターコ」は悪魔とか人さらいとか訳されるかと思う。インディオの人間の血や脂肪を取り、都市住民や外国人などに売って蓄財する伝説はペルーには実際あるのだということが、2009年に現実の事件として発覚したことにより自分にもわかった。

ペルーという国は海岸部の開放的な土地、アマゾンのジャングル、アンデスの閉鎖的な山々、近代的なリマのような都市とさまざまな土地があり、バルガス=リョサがその至るところを描いているのだが、やはりどうしてもアンデスの物語は恐ろしいものにならざるを得ない。だからあまり人気がなかったのかもしれない。それで邦訳が後回しになったのかもしれないとは勝手な推測だが。

ともあれ、これでバルガス=リョサの小説で邦訳が出ていないのは「マイタの物語」(1984)と「ケルト人の夢」(2010)だけになった。もちろん、戯曲や評論も読みたいのだが、まずは小説。ノーベル文学賞の余波が消えないうちに翻訳が刊行されることを期待している。


著者:マリオ・バルガスーリョサ著,木村榮一訳
書誌事項: 白水社 2012.11.6 386p ISBN978-4-00-022071-2
原題:Lituma en los Andes. Mario Vargas Llyosa, 1993


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