誕生日/カルロス・フエンテス
読み始めてしまったと思ったけれど、作品の迷宮に入り込んでしまい、なかなか抜け出せない。古い廃屋となった、でも白壁の美しさを保っている屋敷の中で午後の日射しと影の中、木の葉のように舞っている自分を感じる。夢だとわかっていて、目を覚ましたいのに、夢から覚めずにもだえているような感覚と言えば良いだろうか。それは「難解な本にぶちあたってしまってどうしよう」というとまどいを覚える前に、なんだか心地よい浮遊感の中で文字を追いつつ映像を見ているようだった。
↑は異例とも思えるほど長い解説の中でこの作品を表現した言葉たちが並んでいたので、それにつられて書いてみた。
少し進んでは戻り、何度も読み返していた。ヌンシアはいわば「女」の総合代名詞みたいなものなのでなんとなくつかめるのだが。男の子や語り手がどこでどう入れ替わって行くのかが、次第にわからなくなっていく。すべて「私」なようにも思える。大枠は全体の物語がすごく短い間のものであり、その中での時間と空間の移動がさまざまであることは匂って来る。
「シャーリー・マックレーンへ」の献辞が最初のヒントになっているとも言えるのか、かえって気にしない方が先入観がなく読めて良いと思う気もするのだが、それは人によるのだろう。
装丁が美しい。これは現物でないとわからない。彫りの陰影や手触りを味わってから読みたい。
著者:カルロス・フエンテス著, 八重樫克彦,八重樫由貴子訳
書誌事項:作品社 2012.9.30 176p ISBN978-4-86182-403-6
原題:Cumpleañ;os, 1969. Carlos Fuentes