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2012年3月 2日

無慈悲な昼食/エベリオ・ロセーロ

無慈悲な昼食物語というよりは、四幕ものの舞台のようだ。教会という密室の中でのみ行われるからだが、そのドタバタぶりが舞台上の出来事のように見えるからだ。最初から老人たちが好き放題やっている、そのうち教会のメンバーが順次やりたい放題になってきて、最終的にずっと己の獣性を隠して耐えてきたタンクレドも爆発してしまう。まるでスラップスティック・コメディのようだ。それでもやはり教会が舞台なので、ゴシックホラーのようなムードもずっと流れていて、途中、本当にホラーになってしまう。

教会の慈善事業としての「慈悲の昼食」には老人や貧しい人々がやってくる。老人たちの食事の面倒を見ているのはおそらく「二分脊椎症」の障害をもっていると思われる青年タンクレド。彼はおそらくは親に捨てられ、小さい頃からこの教会で育った。彼をひきとったのは教会の代表を務めるアルミダ神父。ザビーナという少女もこの教会の聖具室係の養女になっているが、養父の目的はわかりきっている。そして三人のリリイと呼ばれる賄い婦たち。

教会のスポンサーたる富豪の家に行かなくてはならないため、ミサを執り行うことが出来ないアルミダ神父の替わりにやってきたのがサン・ホセ・マタモーロス神父。この神父がまたのんべえのしょうもない神父なのだが、歌による説教は抜群の人気。説教の後、教会のメンバーはこのよそ者に余計な話を次々と始める。

お酒、性、お金と登場人物みんな俗物すぎておかしい。あからさまな教会批判なのだろう。その後、内戦の結果亭主を失った女たちの話や虐殺を暗示する事件、教会の婦人会の怪しげな動きなどコロンビアの内政の政治批判も入っていると思われる。

それでもやはり「顔のない軍隊」と同様、暗いのにどこかユーモラスなのが著者の持ち味なのかもしれない。


■書誌事項
著者:エベリオ・ロセーロ著,八重樫由紀子,八重樫克彦訳
書誌事項:作品者 2012.2.29 347p ISBN978-4-86182372-5
原題:Los Almuerzos : Evelio Rosero 2009

顔のない軍隊/エベリオ・ロセーロ