仔羊の頭/フランシスコ・アヤラ
1940年代~50年代に書かれたが、1978年にようやく出版された本だそうだ。スペイン市民戦争は内戦であるという性質上、第二次大戦終結を戦後文学と呼ぶ他のヨーロッパの国々と異なるように見える。内戦終了後に暗黒時代が始まり、実に1975年まで続いているのだから、そもそも「戦後文学」なる言葉はスペインにはあてはめにくいのだろうなと感じた。
表題作「仔羊の頭」はモロッコ旅行中に血縁があると言い張る一家に出会ったことで、戦時中に叔父を見捨てたことがフラッシュバックしてしまう男の話。「帰還」「タホ川」はまさに"帰還文学"。戦後もすぐに表へ出て行けなかった微妙な立場の反体制側の市民の物語が「名誉のためなら命までも」。「言伝」だけがよくわからなかったが、訳者解説によると内戦前の物語で、その後の家族の中での分裂を矮小化したものだという。
著者本人が序文で述べているように、スペイン市民戦争は外国人の手で書かれることが多かったが、これは内側からの声である。ヒロイズムに浸っている「誰がために...」のような作品ではその真実はまるで伝わらない、とでも言いたいのだろうか(きっとそうだと思いたい)。
フランコ時代の陰惨な分裂がこの国にもたらした負の遺産をどう払拭するか、の方ばかり私は見てきた。ではどういう分裂だったのかを庶民のレベルで教えてもらえたことは意義があった。
内容的には興味のある本なのだが、この装丁のせいか手元においておきたいと思うほどではなかったので、めずらしく図書館を利用した。そうして良かったと思う。繰り返し読むほどでも、線を引いておきたいというほどでもない。スペイン現代史に通り一遍の知識しかないので、勉強にはなったが、楽しめたかと言われるとそうでもない、というのが率直な感想でした。
■書誌事項
著者:フランシスコ・アラヤ著,松本健二,丸田千花子訳
書誌事項:現代企画室 2011.3.31 270p ISBN978-4-7738-1010-3
原題:La cabeza del cordero: Fransisco Ayala, 1949,1962
■目次
序
言伝
タホ川
帰還
仔羊の頭
名誉のためなら命も