島暮らしの記録/トーベ・ヤンソン
せっかくトーベ・ヤンソンの「フェアプレイ」を読んだのだから、クルーヴハルにまつわるエッセイを読んでみようと思った。
30年間もの島暮らしをするからには、それだけの土壌があるのだと知った。さすが彫刻家の父と画家の母の間に産まれた子だけあって、子供の頃から夏は「島」というのが定番だったようだ。
プロの助けは借りたが、自分たちで作った小屋だったということを知った。もう結構売れっ子だったと思うのだが、ヨーロッパ人というのは意外となんでも自分で作る。どんな貧乏でもサウナを自宅に作るのがフィンランド人だそうだ。サウナは日本人でいうところの風呂なので、それはなんとなく理解できる。
伝記には1965年~1995年頃までトーベはここにいたとある。1964年秋から作り始め、雪が降る頃に一度停止、翌年春からまた再開して、夏には住んでいた。ムーミンが書かれたのは1945年~1970年なので、「ここでムーミンが産み出されました」というのは嘘ではないが、かなり違う気はする。
さて、長い待機が始まった。わたしは孤立とは似ても似つかぬ、新手の隠遁にはまりこむ。
だれともかかわらず、部外者を決めこみ、なんにしろ良心の呵責はいっさい感じない。
トーベとトゥーリッキとトーベの母親のハムの3人の女性芸術家がそれぞれ自分の芸術に向かい合う。諍いがないわけではないが、それぞれの領分をそれなりに守って暮らしていたのだろうと想像する。だって、あんな狭い小屋の中で...と思ったら、ちゃんと外に仕事場を作っている人もいたようだ。
石と水平線ばかりで暇をもて余さないか、自然の緑が恋しくならないかと、
島を訪れる客たちに訊かれて、ハムは驚きを禁じえない。
海の近くに暮らしていると思うのだが、海は季節によって、時間によって、天候によって、すごく顔を変える。飽きることはない。
静寂がないと、孤立していないと、芸術は生み出せないのだろうなと思う。でも気の置けない友人はそばにいて欲しい。
ところで、例のドキュメンタリーでも言ってたが、「クルーブハル島」という言い方は変だ。「クルーブハル」もしくは「クルーブ島」だろう、とか細かいことを思ったりした。
■著者:トーベ・ヤンソン著,冨原眞弓訳
■書誌事項:筑摩書房 1999.7.25 ISBN4-480-83705-1
■原題:Anteckningar från en ö , Tove Jansson