生きて、語り伝える ガルシア=マルケス
ガルシア=マルケスの回想録。彼の祖父母の代から始まり、本人が27歳でコロンビアを旅立つところで終わっている。
まずお話は、ガボがまもなく23歳になる頃、バランキーヤで記者をしていたときに母親に乞われて、アラカタカにある祖父母の家、そこはまさに彼が生まれ、8歳まで育った、その家を売りに行く小旅行から始まる。そして、これが「作家としての私のキャリアにおいて、下さなければならなかった幾多の決断の中で、間違いなくもっとも重要なものだった」。作家になりたいと決意し、すべてはそのための修行で、物を書いてお金がもらえるなら何でもやっていた当時のガボにとって、重要なものを得ることが出来た旅だった。
というわけだが、全体的にとにかく長い。そして人名や事件をよく覚えている。もちろん本人が全部覚えているわけはなく、友人・知人に取材をしているのだろう。彼ほどの巨匠になれば余計なことまで話してくれそうな知人は大勢いるだろうけれど、それにしても人名が多い。祖父母に育てられた幼少期、父母との不思議な関係と兄弟との希薄な関係、好きな勉強ばかりしていた学生時代、大学をドロップアウトしてジャーナリストとして日銭を稼ぎ、短編を発表し、徐々に名前が知られてきた、そんな流れである。終始貧乏で、時折女性との絡みがあり、終始友達と飲んで騒いでいる、そんな印象である。
その中でたくさんのエピソードが、実際に作品に反映されていることがわかる。「大佐」と呼ばれて何度も作品に出てくるアウレリャーノ・ブエンディーア大佐は祖父がモデルで、「コレラ時代の愛」の郵便局員との恋は両親の話がモデルで…という有名な話以外にも多数の物語が実話を元にしていた。そして、現実にまったくないところから物語や人物を作ることを自らに禁じていたようにすら思えるほど、様々なエピソードの原型が実話にある。
エピソードが大量にあるが、私は本筋からは全然外れるが、彼の母親の話が気に入っている。ガボの父親はガボの母以外のところでも、結婚する前後を問わず、あちこちに子供を作っている。そんなに稼ぎがあるわけでもないのに。ラテンの男は本当に元気で、そしてバカだ。で、母親はその子供らを引き取って一人前になるまで育てている。自分のところにすでに11人も子供がいて、しかも生活は常に逼迫しているというのに。「幻覚を見るほど嫉妬に駆られる女」である母親がなぜそんなことをするのか不思議に思ったガボが母親に聞くと、こう答えたそうだ。
「自分の子供と同じ血が、そこらへんをごろごろしているのを放置するわけにはいかないじゃないか」
ラテンの女はすごい。
■著者:ガブリエル・ガルシア=マルケス著,旦敬介訳
■書誌事項:新潮社 2009.10.30 676p ISBN4-10-509018-6/ISBN978-4-10-509018-0
■原題:Vivir para contarla : Gabriel García Márquez, 2002