世界の測量―ガウスとフンボルトの物語
ガウスとフンボルト…ドイツ人ってどうしてこう偏屈で頑固で偏執狂的なんだろう…の中でも特にすさまじくひどい二人。大笑いさせてもらいました。
二人とも自信家で高慢で他人にはどうでもよさそうなことに執拗にこだわり、正確さを求める。けれど一方は世界を旅し、一方は国内から出ようとしない。一方は女好きで一方は女嫌い(というかゲイですが)。一方は交渉ベタで一方は交渉上手。ひどく似通っていて、それでいてひどく違うこの二人が同時代人であることから、こんな面白い冒険譚を思いついたのだろう。
フンボルトがアマゾンのジャングルでも高山でも制服を脱がず、「鉱山試補」という肩書きにこだわっているところは、うっとりするぐらいドイツ人っぽい。「ドイツ的である」というところがこの物語のテーマの一つだろうと思うのだが、実際のところ、現代のドイツ人もそうなんだろうか。私がよく本で親しんでいるドイツ人はこの時代のドイツ人、19世紀末頃のドイツ人なので、現代人はそんなこともないのだろうと思うが、ベストセラーになったところを見ると、そうでもないらしい。典型的なドイツ人のカリカチュアとして国内でもヨーロッパで受けたような気がする。
ドイツ初の冒険小説という人もいるが、このジャンル、ドイツの古典的な教養小説の流れを汲んでいるので、まさに偏執狂的「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」なのではないかと思われる。
それにしてもフンボルトのスケールの大きさは楽しくてしょうがない。オリノコ川を遡る旅のあたりが一番気に入っている。
■著者:瀬川裕司訳
■書誌事項:三修社 2008.5.23 334p ISBN4-384-04107-1/ISBN978-4-384-04107-1
■原題:Die Vermessung der Welt. 2005, Daniel Kehlmann