呪われた愛
プエルトリコの現代女性作家の作品。プエルトリカンというと、ニューヨークに多く住む、ヒスパニック移民の代表各格というイメージが私には強い。プエルトリコは自由連合州だそうだが、なじみのない言葉。だいたいグアムと一緒、というと少しわかりやすいかもしれない。とはいえ、グアムが米国の自治連邦区ということを知らずに逮捕されてしまった人がいたな…などと飛躍してしまうが、そのくらいポジションがよくわからないのだ。「自由連合州」の意味は一言では片付けられないが、アメリカ合衆国ではないことは確か。ただ、切っても切り離せない関係なのだということは容易に想像がつく。
この作品に出てくるプエルトリコの姿は、まさにその複雑さを反映している。ラテンアメリカ諸国より遙かに裕な生活をしていながら、貧しい黒人も多くクラス。もとはスペイン領だが、米国の軍事的・経済的に重要な位置だったため、アメリカの領土になっているという歴史的背景があり、経済的にはひどく依存しているために、まさにアンヴィヴァレンツな状況がよくわかる。
本書には中編と短篇が収録されていて、一見差別のないような人物の根強い黒人差別だとか、経済的に米国企業に依存することを最終的には拒否してしまった若い女性だとかが登場する。時代もさまざまで、長い歴史の中で培われて来た反米感情とそれにもかかわらず米国に頼らざるを得ない状況。せめて白人であることにしかアイデンティティを見いだせない人々がいて、どうしても米国人を受け入れることが出来ない人々がいて。なんとも悲しく複雑な国なんだと思い知らされる。
もちろん、小説としても秀逸だと思いますよ。
■著者:ロサリオ・フェレ著,松本楚子訳,本永惠子装丁
■書誌事項:現代企画室 2004.9.10 227p ISBN4-7738-0407-6/ISBN978-4-7738-0407-2
■原題:Mardid Amor.1986, Rosario Ferrë