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2009年2月

2009年2月 9日

サラミスの兵士たち

サラミスの兵士たち2003年にスペインでベストセラーになった作品を日本ではようやく2008年に読むことができる。読めないよりは良いけれど、こんなに面白いのに売れないんだろうなぁ、やっぱり。

スペイン現代史に詳しくなくても読めるが、一応スペイン内戦、フランコ、ファランヘ党などといったキーワードは事前に知っておいた方が理解が早いが、あまりとらわれるのも良くない。何しろスペイン内戦は他国の人間から簡単には頭に入りにくい。共和国が正義で国民軍が悪、あるいはその逆といった単純な図式を先入観でもっていると、それはそれでわかりづらくなる。ファランヘ党だって同じファシストでもナチとは成り立ちがまるで違うし、旧ファランヘとフランコが統合したファランヘ党ではやはり性格が違うものだし。

本書は小説であるが、ノンフィクションノベルに近い物のような気がする。まるっきりノンフィクションでは絶対にないと思うが、すべてがフィクションとは言えないだろう。ノンフィクションノベルが出来るまで、というフィクションのようにも思える。

第一部が作品にとりかかるまで。第二部が本編のお話。第三部がまるで別の展開から始まる、最後の締め。第三部にロベルト・ボラーニョが出てきたのには驚いた。まだ1作の短篇しか読んでいないが、何故かここのところ耳にする作家だ。よほど面白いのだろう。それと、ラテンアメリカ出身の最近の作家の作品を読めないから、自分自身、その面での期待もあるのだと思う。

ファランヘ党の中心人物で詩人のサンチェス=マサスがスペイン内戦末期、共和国軍による集団銃殺を逃れたが、その逃亡を助けた共和国軍の兵士がいた。国民軍が来るまでの9日間、彼の潜伏を助けた「森の友」と呼ばれる若い脱走共和国軍兵士がいた。ファランヘ党の中心人物を助けたなどという話は要はフランコ側の人物を助けたことになるわけで、カタルーニャの人たちからすると「悪」なのだが、もちろん、そんなに簡単な話ではない。

キーワードは「パソ・ドブレ」だ。人物とエピソードがパズルのように組み上がっていく。それをドキドキしながら読み進めることが出来るのは、なんとも幸せな経験だ。果たして、最後に文明を守った兵士は誰だろう?

■著者:ハビエル・セルカス著, 宇野和美訳
■書誌事項:河出書房新社 2008.10.30 264p ISBN4-309-20503-8/ISBN978-4-309-20503-8
■原題:Soldados de Salamina,2001 Javier Cercas


Soldados de Salamina
118分
監督:ダビッド・トルエバ
出演: アリアドナ・ヒル、マリア・ボット、ラモン・フォンセレ
公式サイト:http://www.soldadosdesalamina.com/