予告された殺人の記録/十二の遍歴の物語
「予告された殺人の記録」を読んだのは多分3度目だと思うが、「ガルシア=マルケスに葬られた女」を読んで以来、初めてとなる。だからといって本作品の価値や見方が変わるわけではない。読む度に狂気じみた饗宴と、殺人に至る緊迫感が、ぐんぐんと迫ってくる。今回特に感じたのは残忍性だ。内蔵が飛び出し、虫の息の中「自分が殺された」と過去形で人に言うところが、なんとも残酷だ。
ただ、ラストのファンタジーがどうも…さすがにピンと来なかった。これだけがどうしても嘘くさく感じられるのだが、小説なのだから、良いのだろう。今ひとつ小説として読めなくなったところが「ガルシア=マルケスに葬られた女」を読んだ、唯一のデメリットだとは思う。
さて、「十二の遍歴の物語」だが、ヨーロッパを舞台にした短編集である。この短篇、ラストに人が死ぬことが多い。一部幻想的な作品も含まれている。
「大統領閣下、よいお旅を」 Buen viaje, senor presidente, 1979.6
場所:スイス・ジュネーブ
「ラサラ・デイヴィスは聡明な女で、意地は悪かったが、心は優しかった」
意地が悪いけど優しい…??なんだかふっとこの一文にひっかかったまま読み進めると、「あぁ、ホントだ、意地が悪いけど優しかったな」とニヤっとしたくなる気分になる。
「聖女」 La santa, 1981.8
場所:イタリア・ローマ
戦後すぐのローマの猥雑で活気あふれる雰囲気の伝わる話なのに、聖女のお話…。ガボは「聖女の話」が好きですよね。「旅長の秋」もそうだったし。南米の人がみんな好きなのかな?妙に遺体を大事にするところがないですか?
「眠れる美女の飛行」 El avion de labella durmiente, 1982.6
場所:パリ→ニューヨークの機内
川端康成の「眠れる美女」がここに登場。「わが悲しき娼婦たちの思い出」の序章と言えるだろうお話。
「私の夢、貸します」 Me alquilo para sonar, 1980.3
場所:オーストリア・ウィーン
ネルーダの食事する姿が目に浮かんで、笑った。
「「電話をかけに来ただけなの」」 'Solo vine a hablar por telefono', 1978.4
場所:バルセロナ近辺
この手の巻き込まれ型不条理系のお話は苦手。
「八月の亡霊」 Espantos de agosto, 1980.10
場所:イタリア・トスカーナ
短いが怖い、古城の幽霊譚。
「悦楽のマリア」 Maria dos Prazeres, 1979.5
場所:スペイン・バルセロナ
ラストがよくわからない。彼女は死ぬのではなく、殺されたのではないか。
「毒を盛られた十七人のイギリス人」 Diecisiete ingleses envenenados, 1980.4
場所:イタリア・ナポリ
主人公のプルデンシア・リネーロ夫人は死なないが、十七人のイギリス人は牡蠣にあたって死んでいる。
「トラモンターナ」 Tramontana, 1982.1
場所:スペイン・バルセロナ
トラモンターナとはここではカダケスという街に吹く強風のことらしいが、数日吹き荒れて、人の精神をおかしくしてしまうらしい。カダケスに戻って来ると死ぬと言われて、それを信じて二度と帰らない青年が無理矢理連れて行かれて、結局命を落とすはめになる。この青年の「戻らない」という言葉を迷信と言う西洋的合理さかげんが私にはさっぱり理解できない。風に不吉なものがまじっているのは、普通じゃない?
「ミセズ・フォーブスの幸福な夏」 El verano feliz de la senora Forbes, 1976
場所:イタリア・シチリアの海
映画になったらしいのだが、さぞショッキングな映画だろうな。
「光は水のよう」 La luz es como el agua, 1978.12
場所:スペイン・マドリード。
いたずら小僧の男の子たちがかわいらしい。やりすぎか。
「雪の上に落ちたお前の血の跡」 El rastro de tu sangre en la nieve, 1976
場所:最終的にはパリ。この手の話もどうも苦手だ。
■著者:ガブリエル・ガルシア・マルケス著,旦敬介,野谷文昭訳
■書誌事項:新潮社 2007.10.39 349p ISBN4105090135/ISBN978-4105090135
■原題:Crónica de una Muerte Anunciada, 1984
Doce cuentos peregrinos, 1992