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2008年9月21日

迷宮の将軍

迷宮の将軍シモン・ボリーバルという歴史上の著名な人物のことを、日本人である私は南米の人たちほど知っているわけではない。南米解放の父である、くらいなものだ。だから、この本を読むには、例えば「シモン・ボリーバル―ラテンアメリカ独立の父」なんかを事前に読んでおいた方が良いとは思う。そう思いながら、前述の本を読まずにまた「迷宮の将軍」を読んでしまった。次に読むときは必ず。

とはいえ、最近マヌエラ・サエンスに関する記述をちょっと「楽園への道」で読んだので、そちらの方に興味が行ってしまう。ちょっと時代が違うが、日本でいうと木曾義仲の巴御前みたいなものか。この人そのものだけの伝記は日本ではさすがに出ていないので、シモン・ボリーバルを読まないと。

これまでの流れからすると、ぐっとリアリズムを強く打ち出し、押さえた文章が特徴的なこの作品。同じく将軍を描いた「族長の秋」に比べると、それがよくわかる。ボリーバルの最後の道行きの不条理さ、無念さを受け止めつつ、膨大な資料をあさったというマルケスがジャーナリズム時代に培ったルポ形式で書きたくなったかのようだ。それでも「族長の秋」で描いた奇妙きてれつな将軍の姿が少し透けて見える。この作品では少し偏執狂的な面のある将軍だったように描かれているせいだろうか。

■著者:ガブリエル・ガルシア・マルケス著,木村榮一訳
■書誌事項:新潮社 2007.10.30 363p ISBN4-10-509015-1/ISBN978-4-10-509015-9
■原題:El general en su laberinto, Gabriel Garcia Márquez, 1989