最近読んだ本、見た映画・芝居、聞いたCD

2008年6月 3日

座長ブルスコン

座長ブルスコン随分とこれも待たされた気がする。右上の「刊行されるのを待っている本」のコーナーにずっとおいておいた本だ。

ベルンハルトの戯曲は「リッター・デーネ・フォス」以外は読んだことがなかったが、小説と変わらず、饒舌・毒舌、罵詈雑言で楽しい。ナチもオーストラリア国民も、俳優も、女性全般も、自分自身でさえも(非常灯の話は本人の実話だそうな)罵倒し、パロディにする、なんてサービス精神の旺盛な作家なんだろう。

ブルスコンは国民俳優だそうだが、妻と息子と娘の4人だけの劇団でもって地方を公演して回っている。明らかに落ちぶれているのだが、それを妻の欲深のせいにしたり、病気のせいにしたりと責任転嫁しているのだが、明らかに自分のせいだろう。家族は仕方なく付き合っているに過ぎない。それでも息子だけは無類のお人好しらしく、あまり不平も言わず父親に従っている。

座長の一人芝居のように延々と台詞が続けられるが、ちゃんと間をとって、旅館の亭主やら息子やらがひょいひょいと絡んで来るあたりが小説とは違うところだろう。ドイツ語で吠えると、これがまたきっとはまるんだろうな(静岡で5月31日に1回だけやった「エリザベス2世」行きたかったな…)。

1600円とこの手の本にしては随分安いが、ゲーテ・インスティトゥートの助成を受けているらしい。戯曲だから、そんなには高くできないし、アマチュア演劇などで演じてもらうには安くないといけないしなぁ。

そう言えば新潮社「考える人」2008年春号で、海外文学のコアな読者は日本全国で3,000人しかいないそうだ。これは納得できる。以前読んだ本の奥付に何故か初刷部数が書いてあって、そこに「3,000部」とあったからだ。そのときは「自分の読んでいる本は3000人しか読まないと思われているのか」とびっくりしたが、出版業界にいると文学作品の扱いなんて、実際そんな感じだしっていうのがわかってきてしまう。寂しい限り。

■著者:トーマス・ベルンハルト著,池田信雄訳
■書誌事項:「ドイツ現代戯曲選30 第29巻」 論創社 2008.5.25 242p ISBN978-4-846000616-7/ISBN4-8460-061-6
■原題:Der Theatermacher, Thomas Bernhard, 1984