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2008年5月18日

バートルビーと仲間たち

バートルビーと仲間たちバートルビーというタイトルに惹かれて買ってしまったが、なかなか面白かった。最初の方はいわゆる文学エッセイみたいなものかな‥?と思っていた。25年前に小説を上梓したものの、書けなくなってしまった事務員「私」があらためて書く気になったテーマは「書けなくなった作家たちのことを書く」ということだった‥という設定で書かれた小説だった。しかもとても多作で期待されているスペインの現役の作家だった。

内容的にスペイン語圏の知らない作家の名前も多数出てくるが、大物も多いので、比較的平易に感じられる。一つの論旨を堀り下げたりはせず、メモを書き散らすというスタイルをとっているため、様々な作家が様々な理由をつけて書かなくなった話を断続的に次々出してくるだけなので、どんどん読み進めることが出来る。

ルルフォの話が最初の方に出てくる。この人も評価が高いわりに寡作だなーと思っていたら「ペドロ・パラモ」と「燃える平原」だけしか本当に書いていないんだ。どうりで翻訳が他に出てこないわけだ。当たり前だ。

書かなかった人といえばヴィトゲンシュタインの甥の方なんかも、実際何も書いてないけど、有名なんだがな‥。とかふと思ったりもする。
帯にゲーテの名前が出ているけど、本文中に名前は出ているが書けなくなった人の一人として言及されているわけではないんだがな‥とか。カフカなんかの場合、書けなくなったとかではなくて、己の作品を否定したという代表例としては正しい。ヘルダリンなんかも意志として書かなくなったわけではなく、狂気故に書けなくなった代表例だ。しかし、それ以外あまりドイツ語圏の作家が出てこないな‥。フランスやスペイン、イタリア人に比べるとたゆまぬ努力を惜しまない人たちだからかな‥。

ところで、中に出てきて気になった名前は次の二人。ロドルフォ・ウィルコック(Jules Flamart Wilcock 1919-78、アルゼンチン-イタリア)とフリオ・ラモン・リベイロ(Julio Ramon Ribeyro、1929-1994ペルー)。特にリベイロの方は「どこで衝突するかわからないバルガス=リョサにぶつからないようたえず用心しながら執筆していた」というくだりが笑えた。リベイロの方は各種短編集に入っているが、ウィルコックの方は翻訳はない。どこかで読めないものかな。

■著者:エンリーケ・ビラ=マタス著 木村榮一訳
■書誌事項:新潮社 2008.2.29 223p ISBN978-4-10-505771-8/ISBN4-10-505771-5
■原題:Bartleby de Compaña, Enrique Vila-Matas, 2000
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memo
ロドルフォ・ウィルコック(Jules Flamart Wilcock 1919-78、アルゼンチン-イタリア)

フリオ・ラモン・リベイロ(Julio Ramon Ribeyro)
「記章(バツジ)」 La insignia
井尻香代子訳 「エバは猫の中」サンリオ 1987.1.20(サンリオ文庫)/「美しい水死人」福武書店 1995.3.10(福武文庫)

「ジャカランダ」 Los Jacarandas
 井上義一訳「ラテンアメリカ怪談集」河出書房 1990.11.2(河出文庫)

「分身」 Doblaje
 木村榮一訳「遠い女―ラテンアメリカ短篇集 (文学の冒険シリーズ)」国書刊行会 1996.11