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2007年10月29日

悪い時 他9篇

悪い時 他9篇新潮社から出ている中編「悪い時」+集英社から出ている短編集「ママ・グランデの葬儀」の組み合わせだが、本来の刊行順に近いため、できれば一気に読んだ方が関連性が見えて良い。「悪い時」が群像劇だとすると、その中に出てくる端役の人たちが、「ママ・グランデの葬儀」に収録されている短編集にちりばめられている。「この村に泥棒はいない」のドン・ローケは町長ら街の人たちが集う酒場の親父。「バルタサルの素敵な午後」で義理堅いバルタサルが鳥かごを届ける先がモンティエル家。「モンティエルの未亡人」は少し頭がおかしいと言われるモンティエル夫人。「造花のバラ」でミナが袖のない服では礼拝に出られないと言った意味が「悪い時」で明かされる…といった具合。

「大佐に手紙は来ない」のじりじりとした感じ…。フランスであてのない手紙を待つ、困窮したガボの心情を反映しているそうだが、私はどうしても、最近頻発している餓死事件を思い出してしまう。10年前にこの手の餓死事件で最初のものが起き、母親の方の日記が本になって出版された(池袋・母子 餓死日記)。これがつい読んでしまって、もう壮絶で。つくづく読まなきゃよかったなと思った。「大佐に手紙は来ない」はそれがメインテーマではない筈なのだが、「飢え」の方に興味が行ってしまう。

ガボの短編の中でも「火曜日の昼寝」のような映画的な作品が好きだ。まるでクレーンに吊り下げられたカメラから見ているような記述方法、暑さやほこりっぽさが伝わって来る感じがいいなと。それにしても厳しい生活環境で子どもを育てたであろう母親の、なんと凜としていることよ。

「悪い時」は群像劇になっているので、登場人物を書き出さないと全部思い出せないくらいだが、どうも私には町長の顔が浮かんで来ないのだが…他のメンバーは割と自分なりに絵が出てくるのだが。あまりに象徴的な人物に感じられてならないせいかとも思ったりする。本当は全員書き出したいのだが、さすがに時間がない…。

■著者:ガブリエル・ガルシア=マルケス著,高見英一,桑名一博,内田吉彦,木村榮一,安藤哲行訳
■書誌事項:新潮社 2007年6月26日 486p ISBN978-4-10-509010-4
■内容
大佐に手紙は来ない El colonel no tiene quien le escriba, 1958(内田吉彦訳)
火曜日の昼寝 La siesta del martes, 1959(桑名一博訳)
最近のある日 Un día de éstos, 1959(桑名一博訳)
この村に泥棒はいない En este pueblo no hay radrones, 1960(安藤哲行訳)
バルタサルの素敵な午後 La prodigiosa tarde de Baltazar, 1960(桑名一博訳)
失われた時の海 El mar del tiempo perdido, 1961(木村榮一訳)
モンティエルの未亡人 La viuda de Montiel, 1961(桑名一博訳)
造花のバラ Rosas artificiales, 1961(桑名一博訳)
ママ・グランデの葬儀 Los funerales de la mamá grande, 1962(安藤哲行訳)
悪い時 La mara hora, 1962(高見英一訳)

「悪い時」 高見英一訳 新潮社 1882.9.15 ISBN4-10-509003-8
「ママ・グランデの葬儀」 集英社 1982.12.25 ISBN4-08-760079-3