族長の秋 他6篇
「族長の秋」は面白いガルシア=マルケスの作品の中でも特に面白いとまずは率直に思う。「百年の孤独」ほどではないが、これも3回目くらいの再読になるだろうか。荒唐無稽というか、デフォルメされすぎというか、グロテスクというかナンセンスというか、もう滅茶苦茶なんである。裏切ったかつての友を丸焼きにして祝宴に出す、宝くじの不正を隠すため2000人もの子供たちを乗せた船を沖に出して爆破する、妻子は犬に八つ裂きにされるし、列挙したらきりがない。
誰にでも読みやすいとは言えないかもしれない。改行のない文章が延々続く(改段は4ヶ所くらいだったように思う)。それから、語り手が不特定である。「わたし」だったり「われわれ」だったり、違う時代のはずなのに、同じような顔をしてでも異なった語り手が現れる。また、例によって時系列もぐちゃぐちゃで、死んだ後からスタートし、さかのぼったり、後ろへ行ったり、概ねもう年齢の行ったところから死ぬまでの流れにはなっているものの、ゆらゆらと揺れる感じがして、これっていつの話?などと思うのを止めてしまう。これだけでも相当読みづらいのだが、全然感じさせないパワーがあるし、何にせよおもしろいエピソードが満載なので、全然疲れない。
荒れ果てた宮殿をさまよう牛と孤独な独裁者のイメージ。そして足のつぶれた、ヘルニアの腫れ上がった、女のような手をした老いた独裁者。このイメージを決めて、語り口をあのゆら~っとしたやつに収めたところで、著者の勝ちだったような気がする。そしてそのイメージの世界に入り込めば、読む方も苦労せず、すっと楽しめるようになる。
ラテン・アメリカの複数の独裁者がモデルだそうだが、カリブ海沿岸の臭いはエクアドル、ホンジュラスあたりかな?海がないというあたりがボリビアっぽいし。あの辺の生ぬるい空気の感じをつかんでおくと、もっと楽しめる。
「族長の秋」は新潮社から全集の中の一冊→文庫で出され、その他の6篇はサンリオ→ちくま文庫の「エレンディラ」7篇の中から「失われた時の海」を除いた6篇。「エレンディラ」の映画ってDVDにならないのかなぁ。クラウディオ・オハラのコマーシャル、まだ覚えてる。すごい印象的だった。ビデオにはなっていたんだけど、DVDになって欲しい。そういや芝居が始まっているんだな。芝居で盛り上がって、DVDになってくれないかな。「大きな翼のある、ひどく年取った男」もDVDになって欲しい作品の一つ。
■著者:ガブリエル・ガルシア=マルケス著,高見英一訳
■書誌事項:新潮社 2007年4月25日 446p ISBN978-4-10-509012-8
■目次:
大きな翼のある、ひどく年取った男 Un senor muy viejo von unas alas enormes(鼓直)
奇跡の行商人、善人のブラカマン Blacamán el bueno vendedor de milagros(木村榮一)
幽霊船の最後の航海 El último viaji del buque fantasma(鼓直)
無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語 La increible y triste historia de la cándida eréndira y de su abuela desalmada(鼓直)
この世でいちばん美しい水死人 El ahogado más hermoso del mundo(木村榮一)
愛の彼方の変わることなき死 Muerte constante más allá del amor(木村榮一)
族長の秋 El otono del patriarca(鼓直)