蹴る群れ
「サッカーで世界を知る」ために、私はこういうタイプのサッカー本本を読む。サッカーに関する書籍が全部こうとは限らないので毎回慎重に選ぶが、著者が木村元彦だから間違いはない。
「オシムの言葉」のせいで日本代表のサッカージャーナリストと思った人も多いかもしれないが、木村元彦という人はもともと民族問題のジャーナリストで、旧ユーゴおよびユーゴサッカーををその流れの中で追っていて、「オシムの言葉」を2005年12月に上梓、その後2006年のW杯後にオシムが監督になったためにベストセラーになったという次第。本書はその著者の最新作。Numberほかに寄稿したものをまとめたものだが、民族とサッカー、日本サッカー稗史、GKとは、の3部構成。
戦禍の中過酷な転戦を強いられるイラク代表チーム、実は今とてもセンシティブな立場にあるドイツにおけるトルコ移民、チェコの「プラハの春」によって弾圧を受けた両親の元で育ち、懸命にサッカーで道を探るハシェクなど、様々な国でサッカーで救われた人々のレポートに深い感銘を受ける。当時はアテネを目指すイラク代表のチーム内の内情なんてまるで知らなかったし、やさわやかな笑顔で痛快にヴィッセル神戸を騙して去って行ったイルハンにも知らなかった苦労があったのだなぁと思う。特に日朝サッカー史を取り上げたことは興味深い。
スポーツは様々あるが、サッカーでしか、こんなふうに世界を理解することは出来ないと思う。一つ一つの国の事情が必ず記憶に残って、別の本でつながっていくことが私の場合多いな。
■著者:木村元彦著
■書誌事項:講談社 2007年2月16日 341p ISBN978-4-06-213767-6