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2006年9月29日

ナポリのマラドーナ―イタリアにおける「南」とは何か

ナポリのマラドーナ■著者:北村 暁夫著
■書誌事項:山川出版社 2005.11.5 ISBN4-634-49191-5 202p(historia)

■感想
私がイタリアの南北問題に気付かされたのは、ヴィスコンティの「揺れる大地」「若者のすべて」「山猫」といった作品群によるものだ。だから、この本がサッカーにはほとんど関係のない本であることはよくわかっていた。1990年のイタリアW杯でマラドーナ率いるアルゼンチンと開催国イタリアが、マラドーナが救世主となったナポリの地で準決勝を戦うことになった話も知っている。付随していうと、中村俊輔が最初に海外移籍したレッジーナがレッジョ・カラブリアという街にあり、ここが南イタリアの先端で、あと少しでシチリア島というところにあり、貧しく治安の悪い地域であるという話も聞いていた。私の前知識はその程度のレベルだった。だから興味をもったのだ。

本書から、南北問題とひとくくりで言うことが出来るわけではなく、南にも様々な地域格差があり、また、統一前からあった格差は実は小さく、統一後、人為的に拡大していったことなどを教えてもらった。

イタリアからアルゼンチンへの移民と言えば、「母を訪ねて三千里」のマルコがステレオタイプとして有名だが、前から気になっていたのは、もともとスペインを宗主国とし、スペイン語を公用語とするアルゼンチンに、どうしてイタリア移民が多いのだろうということだ。ボカ地区などはほとんどイタリア移民で占められていたという。それが何故なのか、本書を読んでだいたいわかった気がする。イタリア移民が多いからイタリアの二重国籍を取りやすいのに、スペイン語が公用語だし、気候も合っているからといって、アルゼンチンのサッカー選手は皆スペインへ行きたがる、という不思議な現象が起きている。先祖はイタリアに多いというのに…。変だなぁ。イタリアのクラブが北東部に集中しているせいもあるだろう。南部ならともかく、アルゼンチン人には寒いのだ。

先日読んだ別の書籍でもそうだったが、それまであった国内での地域や人種差別が、他民族の移民増加伴い自然と沈静化していくという現象がここでも起きているらしい。人間はどこまでも「差別」を必要としていて、対象が変わることでしかその差別は終わらないという輪廻のようなお話が結末だったのは、なんだかとてもがっかりだった。