僕のプレミアライフ
■原題:Fever Pitch
■著者:ニック ホーンビィ著,森田義信訳
■書誌事項:新潮社 2000.3 ISBN4-10-220212-9 399p(新潮文庫)
■感想
サッカーファンには有名な本書ではあるが、プレミアリーグにさほど興味がないので読まずにここまで来たのに、私がこの本を読んだタイミングが、まさにアーセナルがハイベリーを離れた最初のシーズンだったいうのは偶然だろうか。著者は「自分はアーセナルを愛しているんじゃなくて、ハイベリーを愛しているんじゃないだろうか?」と書いていたが、エミレーツ・スタジアムに足を運んでいるだろうか?
まず、邦訳のタイトルがよくない。サッカーをよく知らない人は「プレミア」ライフでプレミアリーグ生活とは思えないんじゃないだろうか。逆にそれが狙いだったりしたら、不誠実だろう。サッカーファンにはそのまま「フィーバー・ピッチ」でいいんじゃないだろうか。中身がよく伝わってくるタイトルだ。
内容はというと‥これが何とも気恥ずかしい。本書に対する基本的な思いは「シンパシー」だ。寒い雨の中スタジアムに足を運び、負けた日なんか、いったい何のために行ったんだろうと思う。去年からサポーターになった彼女が10年前からじっと優勝を待っていた自分と同じようにチームの優勝を祝う資格はないなんて狭量なこと言ったらはったおされるから口には出せないが、実際心の底ではみんなそう思っている。サッカーにはまった人々は「人生のすべてがチームに支配される」ということにならないよう努力する必要性がある。本当にバカみたいなんである。どんな手ひどい失敗でも、これほどまでに落ち込まないだろうな‥というような落ち込み方をするのだよ、実際(2002年6月12日宮城スタジアムでアルゼンチンのグループリーグ敗退が決まった日が人生で最大につらい日だったかもしれない‥)。
リアル・ライフが浸食されるのを必死で食い止めないと、あっという間にサッカーに覆い尽くされる。普段は試合の中継の日程をチェックして次の試合を見逃さないようにすることが、あるいは次の渡欧をいつにするかを考えることだけが人生になっていくのだ。周囲にそういう輩がいっぱいいた。私は今も尚、そうなることを必死で食い止めている。
だからこそ、「こいつ頭おかしいんじゃないの?」と思えることもたくさん書かれている。著者は「頭おかしい」自分を自虐的にかつ申し訳なさそうに、赤裸々にさらけ出している。これは恥ずかしくて本当に書けないサッカーファンの正直なところだ。
しかし、この著者はこれが最初の出版物でベストセラーなんだから、まさにアーセナルに人生を救われたと言えるだろう。けれど、そんな人は5%未満だろう。80%以上の人はサッカーにまとわりつかれたまま平凡に終わるが、15%くらいの人は結構悲惨なことになってしまうのではないだろうか?
例えば、2002年のワールドカップのボランティアで結婚相手を見つけ、翌年には式をあげた彼女。新築マンションに住まい、とても幸せそうだ(ちゃんちゃん)。
例えば、金子達仁のサッカー塾とか戸塚啓のサッカー塾とか、一流と言われるサッカーライターの小遣い稼ぎに付き合わされ、大学を卒業すると同時にフリーライターなんかやって人生を狂わされてしまった若者たち。彼らの99%はテープ起こしだの、穴埋め記事だの、安くて便利なライターとして消費され、40になっても年収300万以下だ。自宅から独立できず、出来たとしてもボロアパート暮らしで、結婚なんてほぼ不可能だ。そんな人生になってしまったのも、すべてサッカーが悪いのだ(脱線)。
まぁ、それはともかく、やっぱりもっと早く読んでおけばよかったなぁ。最初に戻るが邦題が悪い。読むと気恥ずかしいが、とても楽しい本だ。