ナチス第三帝国とサッカー
ナチス第三帝国とサッカー―ヒトラーの下でピッチに立った選手たちの運命
■原題:Stürmer für Hitler Vom Zusammenspiel zwischen Fußball und Nationalsozialismus : Gerhard Fischer / Ulrich Lindner
■著者:ゲルハルト・フィッシャー,ウルリッヒ・リントナー編著,田村光彰,岡本亮子,片岡律子,藤井雅人訳
■書誌事項:現代書館 2006.4.25 ISBN4-7684-6919-1 240p
■感想
社会学系の堅い本を出している出版社のせいか、非常に訳が堅い。原文のまわりくどさ、そのままの部分がかいま見えるが、きっと原文も相当堅いのだろう。それにしても翻訳者はサッカーに対しての知識があまりないようだ。「全国選抜チーム」ってひょっとして、ドイツがかつて分裂していたことと関係あるのか‥?などと勘ぐってしまいたくなるんだが、単なる誤訳か?
現在のドイツサッカー協会が、第二次大戦前のナチ時代にいかにナチにすりよっていたか、そして戦後、親衛隊員だった幹部がそのまま居残ったように、その体質をまったく反省することなく現在まで面々と続いているかが書かれている。しかしナチ時代というのは、どんな組織・団体でもそう言えるが、異常に残されている文献が少ない。少しの典拠で、なんとかここまでたどりつきました、という印象が強い。インタビューはいつもながら、みなぽっかり記憶喪失で、「政治は関係ない、ただサッカーがしたかった」という決まり文句が出てくるばかり。著者たちはさぞ苦労したことだろう。ベッケンバウアーだって同じ流れの同じ穴のむじななんだなぁ。
本書にはユダヤ人がいかにクラブチームや代表から排斥され、除外されてきたかが書かれているが、そう言えば、現在のドイツ代表にどれだけユダヤ人がいるのだろう‥?
覚えておきたいのは、ユダヤ人に対してリベラルなFCバイエルン、反ユダヤ主義のTSV1860ミュンヘン、テクニックのバイエルン、ファイターのTSVというのは俗説で、実際はこの2チームの区別はクラブのある地域(シュヴァービング=バイエルン、ギージング=TSV)によるものだったとのこと。同じミュンヘンの中でもそれぞれの地域に住む住民の違い、カルチャーの違いにより発生していた、いわばローカルのクラブチーム対決によくある図式に過ぎないということ。
1944年の6月といえば、結構敗色の濃い時期だが、まだリーグ戦が行われていたというのだから、どうしてもサッカーしたかったのか、それとも国民の目を欺きたかったのか。
何しろ時間が経過しているため、具体的なエピソードに乏しいのは仕方がない。ディナモ・キエフのように被害者の方が文献が多く、逸話も多く残されている。だからこそ、ドイツ本国でのナチ時代のサッカーを書いた文献が少ない中で、ドイツワールドカップ前に日本で刊行されたことは高く評価したい。