世界の作家32人によるワールドカップ教室
■原題:The thinking fan's guide to the world cup
■著者:マット・ウェイランド,ショーン・ウィルシー編,越川芳明,柳下毅一郎監訳
■書誌事項:白水社 2006.5.25 ISBN4-560-04976-9
■感想
2006年のドイツ・ワールドカップに出場した32ヶ国について、主に英米の作家、ジャーナリストたちが1ヶ国ずつ執筆しているという本。ロンドンの文芸誌「グランタ」の編集者たちが人選をし、編集したものだが、一流の作家、文筆家から編集者、依頼されて行ったり、その国の出身者や国籍を取得した人を起用したりしているが、全体的には出身者ではないが、その国にいろいろな縁がある人という観点で選ばれているようだ。頻繁にアメリカ人がまじってくるので、「自分の国のナショナルチーム」に固執する傾向が低く、純粋に自分の好みのサッカーを応援し、とてもマイナーな存在として頑張っていることが伺われて、少しほほえましい。(日本人も「自分の国のナショナルチーム」に固執する人ばかりではにあ。その理由は「自国の代表が弱すぎる」というアメリカとは少し違う事情だが)。また、そもそも本書を触発した「スタジアムの神と悪魔」の著者、ウルグアイの作家ガレアーノを選ぶことができなかったのは、サッカールーのせいだと思うと南米サッカーフリークとしては腹も立つが、本書の「オーストラリア」を読んで、これまでいかにレベルの違うサッカーを強いられて来たか、いかにオセアニアサッカー連盟から出たかったかがよくわかり、複雑な気持ちだ。というか、ベン・ライス(「ポビーとディンガン」の著者)だからうまいのか。やられた。
内容は、「その国のサッカーについて」ではまったくなく、自由に書かれているので、本当に様々だ。代表チームの変遷をきちんと追っていたり、その国でかつてワールドカップが開かれたときのことを書いていたり、ポルトガルのようにマデイラ島のサーフィンの話がメインだったりと様々だ(クリスチアーノ・ロナウドがちらと出てくる)。よって本大会を予想しているわけでもなんでもないので、W杯後でも読むに耐えうる内容となっている。とは言え、自分としては本大会中には読み終えようと思っていたのだが、ずっとサッカー誌ばかり読みあさっていたため、結局間に合わなかった。
チュニジアのエスペランス対クラブ・アメリカンのダービーマッチのエンターテイメント性に匹敵するのは、アルゼンチンリームのスーペルクラシコ(ボカ対リーベル)くらいなものだとか、ガーナ(初出場)って実は強いのに、アフリカお約束の部族の違う選手の仲違いで出られなかったこととか、知らない国のことは、もうそれだけで面白い。
翻ってサッカー大国、イングランドやイタリアは直球ではおもしろくない。イングランドは「ぼくのプレミアライフ」のニック・ホーンビィが書いていて、イングランドにもナショナルチームに対する複雑な心境をもつサポーターもいることを教えられる。スペインはお約束のレアルvsバルサではなく、エスパニョール対FCバルセロナのバルサ・ダービーと年のスペイン・ワールドカップあたりを「ジェラルドのパーティ」のロバート・クーヴァーが書いている。フランスのなんだか色っぽいサッカー話も面白い。
ウクライナはやはり哀しい。ディナモ・キエフの話やシェフチェンコの話を聞いていたので、特に目新しくはないが、しかしワールドカップ決勝前夜、オレンジ革命が消滅してしまったので、余計に哀しい。
各章扉に各国のデータが掲載されている。その中で必ずチェックしてしまうのが、人口と乳児死亡率の欄だ。アフリカの乳児死亡率の高さには、やはりというところもあるが、少し驚かされもした。しかし、数だけ見てみると、無論中国やインドなんかに比べると話にならないが、日本は人口多いのだから、もう少し強くてもおかしくない気もしたが、まぁ比率は関係ないか。
白水社のサッカー・ノンフィクションはいつもながらに面白い。W杯前に刊行されたものを全然読んでいなかったので、当分サッカー本ばかり追ってみようか。
■目次
- まえがき(マット・ウェイランド著,山西治男訳)
- 序論(ショーン・ウィルシー著,伊達淳訳)
- ワールドカップ2002総括 (ショーン・ウィルシー著,伊達淳訳)
- Group A:ドイツ(アレクサンダー・オザング,山西治男訳)
- 序論(ショーン・ウィルシー著,伊達淳訳)
- コスタリカ(マシュー・ヨーマンズ著,越川芳明訳)
- ポーランド (ジョームズ・スロヴィエツキ著,野中邦子訳)
- エクアドル(ジェイコブ・シルヴァースタイン著,北代美和子訳)
- ポーランド (ジョームズ・スロヴィエツキ著,野中邦子訳)
- Group B:イングランド(ニック・ホーンビィ著,野中邦子訳)
- パラグアイ(イザベル・ヒルトン著,実川元子訳)
- トリニダード・トバゴ(クレシーダ・レイション著,越川芳明訳)
- スウェーデン(エリック・シュローサー著,実川元子訳)
- トリニダード・トバゴ(クレシーダ・レイション著,越川芳明訳)
- Group C:アルゼンチン(トマス・ジョーンズ,山西治男訳)
- コートジボワール(ポール・ライティ著,実川元子訳)
- セルビア・モンテネグロ(ジェフ・ダイヤー著,実川元子訳)
- オランダ(トム・ヴァンダービルト著,柳下毅一郎訳)
- セルビア・モンテネグロ(ジェフ・ダイヤー著,実川元子訳)
- Group D:メキシコ(ホルヘ・カステニェーダ著,越川芳明訳)
- イラン(サイード・サイラフィザデー,北代美和子訳)
- アンゴラ(ヘニング・マンケル著,伊達淳訳))
- ポルトガル(ウィリアム・フィネガン著,野中邦子訳)
- アンゴラ(ヘニング・マンケル著,伊達淳訳))
- Group E:イタリア(ティム・パークス,北代美和子訳)
- ガーナ(キャリル・フィリップス著,岩本正恵訳)
- アメリカ(デイヴ・エガーズ著,岩本正恵訳)
- チェコ(ティム・アダムズ著,実川元子訳)
- アメリカ(デイヴ・エガーズ著,岩本正恵訳)
- Group F:ブラジル(ジョン・ランチェスター,山西治男訳)
- クロアチア(コートニー・アンジェラ・ブルキッチ著,岩本正恵訳)
- オーストラリア(ベン・ライス著,野中邦子訳)
- 日本(ジム・フレデリック著,柳下毅一郎訳)
- オーストラリア(ベン・ライス著,野中邦子訳)
- Group G:フランス(アレクサンダル・ヘモン著,岩本正恵訳)
- スイス(ペーター・シュタム,山西治男訳)
- 韓国(ピーター・ホー・デイヴィーズ著,柳下毅一郎訳)
- トーゴ(ビニャンガ・ワイナイナ著,伊達淳訳)
- 韓国(ピーター・ホー・デイヴィーズ著,柳下毅一郎訳)
- Group H:スペイン(ロバート・クーヴァー著,越川芳明訳)
- ウクライナ(ベンジャミン・パウカー著,野中邦子訳)
- チュニジア(ウェンデル・スティーブンソン,北代美和子訳)
- サウジアラビア(スークデーヴ・サンドゥ,山西治男訳)
- チュニジア(ウェンデル・スティーブンソン,北代美和子訳)
- あとがき ワールドカップで勝つ方法(フランクリン・フォア著,伊達淳訳)
- ワールドカップ ドイツ大会 グループリーグ・決勝トーナメント日程
- ワールドカップ 過去の成績
- ワールドカップ 通算成績表
======================== - ワールドカップ ドイツ大会 グループリーグ・決勝トーナメント日程