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2006年7月

2006年7月25日

アディダスVSプーマ―もうひとつの代理戦争

アディダスVSプーマ―もうひとつの代理戦争■原題:Pitch Invasion : Barbara Smit
■著者:バーバラ・スミット著,宮本俊夫訳
■書誌事項:ランダムハウス講談社 2006.5.24 ISBN4-270-00127-5 448p
■感想
スポーツブランドで知られるアディダスとプーマがもとは一つの会社で、ドイツの片田舎の小さな町で、川のこっち側と向こう側に本社があることはよく知られている。元は兄弟の会社で二人が袂を分かれ設立したのが二社だと。スポーツビジネスの中でライバルとして争ってきた二社のストーリーを読みたいというより、むしろ戦前から続くドイツのある家族の物語が読みたいと思い読み始めた。
期待していたものでは正直なかった。やはりビジネスがメインになってしまうから仕方がない。だが、もう少し家族の仲違いが生み出す困ったエピソードなどがあると親近感が湧いたような気がするのだが‥。著者が明らかに職人肌のアディー・ダスラーに肩入れして、商売人のルディ・ダスラー(プーマは「ルーダ」の変形だそうだ)を軽視し、それがそのままホルストvsアーミンの息子の世代にまで引きずっている。この二人が仲違いしたのは、性格の違いからやむを得ないのだろうが、大きな原因はナチにあったのが時代故だ。実際に親子や兄弟での密告は頻繁に行われ、戦後まで引きずったのはよくあるが、この二人の仲違いは根本的には誤解と思いこみから発しているように思われる。

途中、主役がホルスト・ダスラーに変わると、ここからが国際スポーツ・ビジネスの表舞台で、オリンピックやワールドカップのそれぞれの大会でどうホルストが活躍したか、そしてフランスや日本などワールドワイドに広がっていく。この辺がおそらく一番面白いところなのだろうが、どういうわけか、私には一番退屈だった。サクセス・ストーリーが嫌いなのかもしれない。
それより、むしろ靴メーカーのドイツ・アディダス(両親)と国際企業であるフランス・アディダス(息子)の対立がどう深まっていったか、というあたりはあまり描けていないからだろう。ホルスト側の一方的な話しか見えてこないのだ。母親や姉妹たちの性格描写が弱いからではないだろうか。頑固一徹職人のアディとビジネスマン・ホルストが仲違いするのは当然だが、母親と息子のひどい仲違いの原因が根本的にはよくわからない。ノンフィクションで、これだけ魅力的な題材で、これだけ人が描けていないのでは、面白い筈がない。それはこの一族だけの話ではなく、後で出てくるたくさんの投資家や後のアディダス、プーマを救ったビジネスマンについても言える。レネ・イェギにしても、ロベール・ルイ=ドレフェスにしても、もう少し人物についての描写が薄い。ただ一人、ジルベルト・ボーだけが、ちょっと魅力的に見えたが、それ以外ベルナール・タピの悪漢ぶりくらいしか記憶に残らない。

それでも、ホルスト死後、多くの投資家が出てくるあたりから逆にスピード感が増してくる。アディダス、プーマの危機的な状況をヒヤヒヤしながら読んでいる方が面白い。

結局、アメリカ市場でのナイキとの戦いにあっさり敗れてしまったアディダスとプーマ両者は家族の手から失われてしまうことになる。ホルストが若く死んだことも大きい。結局彼がようやくドイツ本社に戻ってからがアディダス凋落のスタートであることを考えると、父親が生きているうちに戻れば、違っただろうになと思わざるを得ない。

それでも、多くの経営者や銀行が努力を続け、なんとかアディダスもプーマも巨大な国際企業として生まれ変わり、2006ワールドカップでさらなる激しい戦いを繰り広げることでしょう‥ってなところで終わっているのだが、ちゃんと家族の話にもオチがついている。最後に、アーミンの息子フランクが川を越えてアディダスの法律部門の責任者に就任したという逸話がのっている。家族経営からはほど遠くなり、株ですらもうほとんど残ってはいないダスラー家だが、長年の対立の末の小さな和解の兆しとみて良いのかもしれない。

2006年7月16日

世界の作家32人によるワールドカップ教室

世界の作家32人によるワールドカップ教室■原題:The thinking fan's guide to the world cup
■著者:マット・ウェイランド,ショーン・ウィルシー編,越川芳明,柳下毅一郎監訳
■書誌事項:白水社 2006.5.25 ISBN4-560-04976-9
■感想
2006年のドイツ・ワールドカップに出場した32ヶ国について、主に英米の作家、ジャーナリストたちが1ヶ国ずつ執筆しているという本。ロンドンの文芸誌「グランタ」の編集者たちが人選をし、編集したものだが、一流の作家、文筆家から編集者、依頼されて行ったり、その国の出身者や国籍を取得した人を起用したりしているが、全体的には出身者ではないが、その国にいろいろな縁がある人という観点で選ばれているようだ。頻繁にアメリカ人がまじってくるので、「自分の国のナショナルチーム」に固執する傾向が低く、純粋に自分の好みのサッカーを応援し、とてもマイナーな存在として頑張っていることが伺われて、少しほほえましい。(日本人も「自分の国のナショナルチーム」に固執する人ばかりではにあ。その理由は「自国の代表が弱すぎる」というアメリカとは少し違う事情だが)。また、そもそも本書を触発した「スタジアムの神と悪魔」の著者、ウルグアイの作家ガレアーノを選ぶことができなかったのは、サッカールーのせいだと思うと南米サッカーフリークとしては腹も立つが、本書の「オーストラリア」を読んで、これまでいかにレベルの違うサッカーを強いられて来たか、いかにオセアニアサッカー連盟から出たかったかがよくわかり、複雑な気持ちだ。というか、ベン・ライス(「ポビーとディンガン」の著者)だからうまいのか。やられた。

内容は、「その国のサッカーについて」ではまったくなく、自由に書かれているので、本当に様々だ。代表チームの変遷をきちんと追っていたり、その国でかつてワールドカップが開かれたときのことを書いていたり、ポルトガルのようにマデイラ島のサーフィンの話がメインだったりと様々だ(クリスチアーノ・ロナウドがちらと出てくる)。よって本大会を予想しているわけでもなんでもないので、W杯後でも読むに耐えうる内容となっている。とは言え、自分としては本大会中には読み終えようと思っていたのだが、ずっとサッカー誌ばかり読みあさっていたため、結局間に合わなかった。

チュニジアのエスペランス対クラブ・アメリカンのダービーマッチのエンターテイメント性に匹敵するのは、アルゼンチンリームのスーペルクラシコ(ボカ対リーベル)くらいなものだとか、ガーナ(初出場)って実は強いのに、アフリカお約束の部族の違う選手の仲違いで出られなかったこととか、知らない国のことは、もうそれだけで面白い。

翻ってサッカー大国、イングランドやイタリアは直球ではおもしろくない。イングランドは「ぼくのプレミアライフ」のニック・ホーンビィが書いていて、イングランドにもナショナルチームに対する複雑な心境をもつサポーターもいることを教えられる。スペインはお約束のレアルvsバルサではなく、エスパニョール対FCバルセロナのバルサ・ダービーと年のスペイン・ワールドカップあたりを「ジェラルドのパーティ」のロバート・クーヴァーが書いている。フランスのなんだか色っぽいサッカー話も面白い。

ウクライナはやはり哀しい。ディナモ・キエフの話やシェフチェンコの話を聞いていたので、特に目新しくはないが、しかしワールドカップ決勝前夜、オレンジ革命が消滅してしまったので、余計に哀しい。

各章扉に各国のデータが掲載されている。その中で必ずチェックしてしまうのが、人口と乳児死亡率の欄だ。アフリカの乳児死亡率の高さには、やはりというところもあるが、少し驚かされもした。しかし、数だけ見てみると、無論中国やインドなんかに比べると話にならないが、日本は人口多いのだから、もう少し強くてもおかしくない気もしたが、まぁ比率は関係ないか。

白水社のサッカー・ノンフィクションはいつもながらに面白い。W杯前に刊行されたものを全然読んでいなかったので、当分サッカー本ばかり追ってみようか。



■目次

まえがき(マット・ウェイランド著,山西治男訳)
序論(ショーン・ウィルシー著,伊達淳訳)
ワールドカップ2002総括 (ショーン・ウィルシー著,伊達淳訳)

Group A:ドイツ(アレクサンダー・オザング,山西治男訳)
コスタリカ(マシュー・ヨーマンズ著,越川芳明訳)
ポーランド (ジョームズ・スロヴィエツキ著,野中邦子訳)
エクアドル(ジェイコブ・シルヴァースタイン著,北代美和子訳)
Group B:イングランド(ニック・ホーンビィ著,野中邦子訳)
パラグアイ(イザベル・ヒルトン著,実川元子訳)
トリニダード・トバゴ(クレシーダ・レイション著,越川芳明訳)
スウェーデン(エリック・シュローサー著,実川元子訳)
Group C:アルゼンチン(トマス・ジョーンズ,山西治男訳)
コートジボワール(ポール・ライティ著,実川元子訳)
セルビア・モンテネグロ(ジェフ・ダイヤー著,実川元子訳)
オランダ(トム・ヴァンダービルト著,柳下毅一郎訳)
Group D:メキシコ(ホルヘ・カステニェーダ著,越川芳明訳)
イラン(サイード・サイラフィザデー,北代美和子訳)
アンゴラ(ヘニング・マンケル著,伊達淳訳))
ポルトガル(ウィリアム・フィネガン著,野中邦子訳)
Group E:イタリア(ティム・パークス,北代美和子訳)
ガーナ(キャリル・フィリップス著,岩本正恵訳)
アメリカ(デイヴ・エガーズ著,岩本正恵訳)
チェコ(ティム・アダムズ著,実川元子訳)
Group F:ブラジル(ジョン・ランチェスター,山西治男訳)
クロアチア(コートニー・アンジェラ・ブルキッチ著,岩本正恵訳)
オーストラリア(ベン・ライス著,野中邦子訳)
日本(ジム・フレデリック著,柳下毅一郎訳)
Group G:フランス(アレクサンダル・ヘモン著,岩本正恵訳)
スイス(ペーター・シュタム,山西治男訳)
韓国(ピーター・ホー・デイヴィーズ著,柳下毅一郎訳)
トーゴ(ビニャンガ・ワイナイナ著,伊達淳訳)
Group H:スペイン(ロバート・クーヴァー著,越川芳明訳)
ウクライナ(ベンジャミン・パウカー著,野中邦子訳)
チュニジア(ウェンデル・スティーブンソン,北代美和子訳)
サウジアラビア(スークデーヴ・サンドゥ,山西治男訳)

あとがき ワールドカップで勝つ方法(フランクリン・フォア著,伊達淳訳)

ワールドカップ ドイツ大会 グループリーグ・決勝トーナメント日程
ワールドカップ 過去の成績
ワールドカップ 通算成績表


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