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2006年6月14日

ダイヤモンドと火打ち石

ダイヤモンドと火打ち石■原題:Diamantes y pedernales
■著者:ホセ・マリア・アルゲダス著,杉山晃訳
■書誌事項:彩流社 2005.6.15 ISBN4-02-250187-1
■感想

私は何故アルゲダスが好きなんだろう。

アルゼダスの作品にはちょっとわけのわからない詩や言葉がたくさん入って来る。インディオの言葉を日本語に翻訳するのは無理なんだろう。インディオの世界で育った白人で、アイデンティティは完全にインディオなのに、肉体は白人という、なんというか人種同一性症候群といったような症状を見せるアルゲダス。そのアイデンティティの不安定さゆえか。

インディオというと、やはり虐げられた民、先住民なのに白人に侮蔑され、搾取される対象であるというイメージがある。アルゲダス作品の中のインディオも、やはり同そのようなの扱いは受けているが、外から眺めた「かわいそうな」インディオとはまったく違う。独自のカルチャーをしっかりともち、骨太に大地に生きる民といった印象が残る描き方だ。それでも「哀しさ」は強く伝わって来る。

アルゲダス作品では、理知的だったり、優しさをもったりする人物がいるにもかかわらず、突然暴力的な場面が勃発することが頻繁に起こる。それが南米的な乱暴さと哀しさの両極端な面を感じるからかもしれない。静と動の差が激しい。

更に、今回はアルゲダスが後年悩まされた子供の頃のひどい性体験をセラピーのために書き記した面もあり、猥雑さが伴ってさらに複雑な世界になっている。

少々知恵遅れのインディオに優しくしていたのに突然爆発する郷士や、鋏をもって踊る戦士や、不思議な人物がたくさん登場する不思議な短篇集だった。