アウステルリッツ
■著者:W. G. ゼーバルト著,鈴木仁子訳
■書誌事項:白水社 2003.7.25 ISBN4-560-04767-7
■感想
ドイツ人でイングランドへ移民した作家ということで読んでみた。最初は建築史の話ばかりで面食らっった。文節の区切りもあまりないし、ちょっと途方に暮れたが、すぐに面白い筋書きの風変わりな小説であると気付く。面白い筋書きになる、とすぐわかったのは、アウステルリッツが自分の生い立ちを語り始めるところからだ。風変わりであるというのは、頻繁に関連する写真が入り込んで来るので、まるで伝記のようにも、あるいはアウステルリッツの語るエッセイのようにも見える点である。
人と人が行き交う、分岐点である「駅」という建築物に引かれるアウステルリッツ。自分の記憶が5歳以前くらいまではなく、自分の育ての親が養父であり、実際の親が行方不明であることを青年期に知って、以来ずっと意図的に自分の過去を探ろうとしない態度をとり続ける。
五十過ぎまで孤独に過ごし、突然ある建物の中に入り込んだことで、自分がどこから来たのかを思い出す。そこから記憶を辿ってヨーロッパ中を旅し、自分の出身国を訪れ、父や母の足跡を追う。そして、自分の過去にかかわる歴史的事実にも目を向けずに来たことに気付く。それはもちろんユダヤ人である自分のルーツ、両親のその後を知りたくなかったからだ。
彼が記憶を取り戻すきっかけになったのが建物であり、それまで建築、美術、歴史と様々な文化に触れてきたのに何故か「音楽」ではないことに意外性を感じた(後に音楽も登場するが)。五感の中で最も記憶と結びつきやすいのが聴覚=音楽だと私は思っているからだ。
残念ながら2001年に交通事故で亡くなっているそうだが、最近日本でもあと2冊翻訳されている。ぼちぼちと読んで見たい。