黒い時計の旅
■著者:スティーヴ エリクソン 著,柴田元幸訳
■書誌事項:白水社 2005.8.20 ISBN4-560-07150-0(白水社uブックス)
■感想
現代幻想文学の中でも、現代アメリカ文学の中でも有名な名著なのだが、どうにも敬遠して来たエリクソン。理由は多分単純に「ポストモダン‥??SF‥??」というようなムードに気圧されてしまい、近寄りがたい存在になっていたからではないかと。そもそも第二次大戦にドイツが勝っていたら、その後のヒトラーの云々というあらすじが良くない。それだけでなんとなく敬遠してしまう。だいたい本文には総統とか、Zとかしか出てないのだから、おもしろみが減ってしまう。版元はほかに何か紹介しようがなかったのだろうか。
内容はそういった歴史改訂に拘泥することなく、1970年代までドイツが勝ち進んでいてメキシコで戦っている‥という背景に重みはあるものの、それだけでは終わらないというところがある。時空と主人公が次々入れ替わって、でもちゃんと筋が通っているという面倒なストーリー展開に引きつけられ、目が離せない。最初こそ読みづらいかと感じたが、のってくると柴田氏のよく言う「ドライブ感」でぐいぐい引っ張っていく。デーニアの息子からバニング・ジェーンライトへの視点の転換、その後長い物語を経て、ゲリ・ラウバルが登場し、クロスするようにデーニアに視点が戻って来る。最後にやはりデーニアの息子へと視点が受け継がれていく。この流れに、すんなり乗れると結構楽しい小説だと思う。