トランス=アトランティック
■著者:ヴィトルド・ゴンブローヴィッチ著,西成彦訳
■書誌事項:国書刊行会 2004.9.30 ISBN4-336-03594-6(文学の冒険シリーズ)
■感想
ポーランド人の作家で、第二次大戦勃発直前にアルゼンチンに行き、そのまま故国に帰れなくなったゴンサロヴィッチの作品は日本で意外に訳されている。本作はアルゼンチンの様子は、意図的に出てこないが、当時の文壇を揶揄するような言説が少々ある。ボルヘス全盛期かぁ。そりゃあヨーロッパ気取りが鼻につく、イヤな感じの文壇だったんだろうな。裏寒いのヨーロッパからわざわざラテンアメリカの血湧き肉躍る(?)南を目指した作家には居心地悪かろう。それにしてもシルビア・オカンポとビオイ・カサレス夫妻は毎度評判いいな。
最初、ひどい訳で驚いたが、読み進めるうちにこれが強く意図したものであり、原文にたくさんのしかけがあることを察することができる。次々と現れる「?」と引っかかる言葉たちにどんな意味があるのかあれこれと考えてしまう。「すたすた歩き」とか「ムシャムシャ」とか「バカッ、ボコッ」とか。「息子」が「若さ」くらいのことはわかるんだけど‥なかなか厳しい風刺文学である。
世界中にはたくさんの祖国喪失者はいるが、当時のポーランド人というのも、精神的には相当悲惨だったんだろうな。蹂躙されるとはこのことだ、という分割に次ぐ分割で、ついになくなっちゃったという状態。それを同じ亡命者としては「我々にはショパンがいる」と言い続ける連中を惨めったらしくてイヤ~な感じだったんだということはわかる。
実際、後ろについている日記の方が面白かったりする。他の作品も機会あれば読んでみよう。