フェンス
■著者:マグナス・ミルズ著,たいらかずひと訳
■書誌事項:DHC 2000.7.27 ISBN4-88-724190-9
■感想
以前から名前は知っていたが、トマス・ピンチョンに絶賛されたっていうところが能書きとしてはイヤだったので、近寄らないようにしていた。しかしよく考えたら現代イギリス文学はまるで知らないので、労働者階級から出てきた作家というところがちょっと気になり読んでみる気になった。
ちょっとブラックが入っていて、基本的にはリアルな描写なのだが、少しずつずれていくところが面白い。そう。面白い「??」という違和感はあるものの、いろいろなモチーフでの「繰り返し」がしつこくはいってくるあたりで、リズムとしてはのって来るので安心して読めるのだが、ちゃんと「カクッ」というオチがつくところが良い。ともかく不思議な内容。
イギリスのような階級社会で労働者階級からインテリの職業である作家が出てくるのはあまり例のないことなのだろう。彼らはいつもパブへ行きたがる。夜ほかにやることがないのだ。イングランドのパブはスコットランドのパブと違って10時過ぎないと人が集まらないとか、独特だなぁと思う。本人は今でも郵便配達夫をしているらしいが、また面白いネタでも仕込んでいるのかもしれない。
それにしてもこの本を読んでいると、ポール・オースターの「偶然の音楽」を思い出さざるを得ない。あのときは「石を積む」という行為が何を現しているのかと、そればかり考えて読み進めていたが、多分それは「苦行」のように見えたからだろう。今回はどうも「フェンスを作る」ことの描写が詳細なので、「主人公たちは、なんだかんだ言ってフェンスを作るのが楽しいらしい‥」とか単純に思ったりしたが、それは間違いなんだろうか?