風都市伝説―1970年代の街とロックの記憶から
■著者:北中正和編
■書誌事項:音楽出版社 2004.5.20 ISBN4-900340-88-X(CDジャーナルムック)
■感想
1970年代初期の日本のポップスの話が好きだ。その理由は主にはっぴいえんどとシュガーベイブにある。その2バンド以外にも好きなミュージシャンは多い。南佳孝や荒井由実時代のユーミンでさえ、すごくいい。何より人数的には小さな集団だったミュージシャンたちの新しいものを作って行こうという意気込みが好きだからだろう。
この本ははっぴいえんどを看板にしていた風都市(法人名ウィンド・コーポレーション)という伝説の音楽事務所のお話である。松本隆の小学校時代からの友人だった石浦信三というはっぴいえんどのマネージャー兼風都市の中心人物ほか多数のミュージシャンたちの証言でつづる、1970年代の新しいポップスを作って行った人々のお話である。大貫妙子やユーミンは出てくるが、山下達郎は出てこない。ヤマタツは音楽的傾向は違うものの、基本的には大滝詠一のポップスオタク路線を継ぐ人なんだがな。南佳孝のデビュー作が松本隆プロデュース、全曲作詞なのは知っていたが、同じトシとは知らなかった…。
「風街ろまん」ははっぴいえんどの2枚目のアルバム名である。松本隆はいまだに「風待」と風街にひっかけたサイト名を使っている。そのくらい「風」の「街」ははっぴいえんどのイメージにしみついているし、松本隆の中で大事なものなんだろう。「風の街」は摩天楼の街だし、琥珀色だし、緋色の帆を掲げた船が停泊していたりするし、なんだか無茶苦茶文学的だったりするのだが、それこそが1970年代の東京だ、というのが私の中で出来上がってしまったイメージだ。
文中に繰り返し出てくるが、「シティ」という言葉にこだわるのは、やっぱり東京のお坊ちゃんたちの音楽だからなんだろうなぁ。松本隆ははっぴいえんど解散後、すぐに作詞家になったのかと思っていたら、一時慶応に復学してたっていうんだから。はっぴいえんど音楽的には細野晴臣・大滝詠一という大物をかかえながらも、骨格は松本隆がつくっていたのだなということがよくわかる本だ。
PAさえよかったら、もっと評価は違っていた筈だという言葉が繰り返し出てくる。そりゃそうだ。声さえ聞こえない、今のカラオケシステムより遙かに悪いPAじゃあつらい。1980年代初頭に多少PAをかじったことがあるので、少しはそのつらさはわかる気がするな。
ビジネスビジネスって言わないのはよかったけど、やっぱりつぶれてしまったのは、辛いことだったんだろうな。